第6話・仁・ラムウオッカ〔子供時代〕②


 宇宙日本刀を手に立ち上がって仁を睨む剣の鬼人。

 動じない仁に、鬼男はつかんだ刀を台にもどして言った。

「そこまで言うなら、試してやる。毎日、山を登ってここに来い。何も持ってこなくていい……それが出来たら、弟子も考えてやってもいい」

「わかった」

 その日から、仁・ラムウオッカの弟子入り通いがはじまった。

 

 一ヶ月が経過した、その日は朝から風雨で荒れた天候だった。

 洞窟の入り口を閉めている木製の扉が、風でガタガタ揺れる。

 焚き火の近くで、木の串に通した、ゾバットラの鼻肉を焼いている鬼男が呟いた。

「さすがに、この天候じゃ山を登っては来れねぇか」

 鬼男は、三日前に仁が仕留めて運んできた。

『ゾバットラ』を見た。

(まさか、こんな短期間で山のケモノを仕留める程の力をつけるとは……何者だ、あの小僧)


 扉に打ちつける風雨の勢いが増す。

「扉に閂〔かんぬき〕をして戸締まりしてくるか……どうせ、あの小僧も来ないだろうから」

 立ち上がった鬼男は扉に近づき、扉を開けようとグイグイ押してくる風の勢いを力で押さえつけて、横棒の閂を掛けた。

「これで良しと」

 扉から離れて、焚き火の近くに胡座をして。

 焼けた鼻肉を肴に酒を呑んでいると。

 外を吹き荒れる風の勢いが弱まってくるにつれて、扉を叩いたり蹴る音が聞こえてきた。 

「まさか……」

 急いで閂を外して扉を開けると、吹き込む強風と豪雨の中……びしょ濡れで扉の外に立つ、仁・ラムウオッカの姿があった。

 虚ろな目で仁が言った。

「今日も来たぞ……弟子にしろ……どうして、扉を押して中に入ろうとしたら、いきなり閂で扉を閉めて……」

 それだけ言うと、仁はドッと前に倒れた。


 洞窟の中の焚き火の近くに、寝かされていた仁は目覚めた。

 額には鬼の万能薬袋が乗せられていた。

 仁を介抱している赤鬼が言った。

「オレの負けだ、本弟子にはできないが仮弟子にならしてやる……これからは、ここに通うのは三日に一回でいい。

その時に何か必要なモノがあれば伝える、買って持ってきてくれ」


 鬼男は、愛用の金棒を手にして言った。

「オレは、人に物事を教える大器じゃない……仮弟子のおまえが勝手に見て覚えろ、いいな」

 仁がうなづき、その日から師弟関係の修業がはじまった。


 数日後──仁は、鬼男と並んで舟の槽で自作した木刀で、片手素振りをしていた。

 師匠の赤鬼男は、金棒を片手で軽々と素振りをしている。

 仁は素振りをやめると、鬼男が振っている金棒を指差す。

 鬼男が言った。

「なんだ、この金棒を振ってみたいのか」

 地面に金棒を置く鬼男。

「持ち上げてみろ」

 仁が地面に置かれた金棒を、両手で持ち上げようとする……金棒は持ち手の辺りが数ミリだけ持ち上がっただけだった。

 鬼男が高らかに笑う。

「おまえには、金棒はムリだ……今日は帰れ、片手素振りは疲れただろう」

 仁は素振りをしていた方の腕を擦りながら、頭を下げて去っていった。

 仁の姿が見えなくなると、鬼男は複雑な表情で、数ミリ持ち上がった金棒を見た。

(なんてヤツだ、子供なのに重金属の金棒を持ち上げやがった。何がアイツをそこまで、強く揺り動かしている復讐心か?)

 鬼男は、自分はとんでもない剣の悪鬼を育てているのでは? と、不安になった。


 数日後──鬼男の師匠は、仁を川原に連れてきて言った。

「久しぶりに大岩を斬りたくなった……村の広場には、まだオレが真っ二つにした岩があるか?」

「ある……村を守る『鬼岩』と呼ばれている」

「そうか……たまたま、立ち寄った村にあった岩を斬っただけなんだがな……今日は、あの岩を斬ってみるか」

 金棒を構える鬼男の全身から、陽炎のような剣波が噴き出し、振った金棒から放たれた剣波が大岩を真っ二つにする。


「今のが基本の剣波だ、刀の表面にコーティングをすれば、切れる刀を峰打ち刀で使うコトもできる……その逆もありだがなやってみろ」 

 仁は木刀を、少し溜めて構えると小さめの岩に向かって木刀を振るった。

 岩に変化はない。

 鬼男が軽く笑いながら言った。

「まだまだだな、初めての剣波は気力を使うからな疲れただろう……今日はこれで帰れ」

 一礼をして仁が去ると、鬼男は険しい表情で仁が割ろうとした岩に横に剣波で斬る。

 表面が無傷な岩の内部には、刀で斬ったような傷が残っていた。

「内部斬り……オレでも修得するのに、一年はかかった剣技を数日……ん!?」

 鬼男は、岩の後ろに転がっている拳大の石が、真っ二つになっているのを見て冷や汗が流れる。

(バカな……物体を通過させて背後のモノだけを斬る高度な剣技……二種類の異なる剣技を、子供が無意識に同時に放ったのか……あり得ない)

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