08話.[側にいてくれる]

「見つけましたっ」


 それは当たり前のことだ。

 何故ならいちいち隠れたりはしないから。

 それと、また余計なお世話を発揮して高橋君が知らせてきたからだ。


「こんにちはっ」

「ええ、こんにちは」


 高校の制服を着ていると不思議な感じがする。

 でも、似合っているのだからずるい、私も可愛く生まれたかった。


「あれ、その人は誰ですか?」

「佐久間五月先輩よ、3年生」

「は、初めましてっ、山本遥と言いますっ」

「ん、よろしく」


 どうやら高橋君はいないようだ。

 仮にいても最強の味方である五月がいてくれているからそれでいいが。

 とりあえず、マイペースな五月と山本さんが話しているのを静かに見ていた。

 実は早くも席替えをして何気に斜め後ろに瑠奈となったから頭を撫でつつ。

 今日は朝からずっとこの調子だ。

 ちなみに、告白した件は受け入れてくれてまた関係が以前のものに戻っている。

 だからなにが原因なのかが全く分からない。

 

「佐藤先輩、今日ってお時間ありますか?」

「ええ、大丈夫よ、どこかに行きたいの?」

「少しお話しがしたくて」

「分かったわ」


 瑠奈の様子が気になるところだけどなんにも言ってこないいまなら仕方がない。

 それにもう関係は戻っているから勘違いしようもないことだし。

 でも、また前みたいになったらと考えると少し怖かった。


「瑠奈、そういうことだからいい?」

「うん……家事はしておくから」

「ありがとう、なるべく早く帰るから」


 それから数時間が経過して放課後になって。

 話がしたいということだから教室から動かずに待っていた。

 瑠奈は元気がない状態のまま教室から出ていき、代わりに五月と山本さんがやって来る。


「お待たせしました」

「ええ、ここでいいの?」

「はい」


 先輩の席に座るのは緊張するだろうからと自分の席を譲っておいた。

 私は代わりに瑠奈の席に座らせてもらう、五月はそんな私の足の上に座ってきた。


「とりあえず、入学おめでとう」

「ありがとうございますっ」


 大変可愛らしい。

 ここで、は? って感じの雰囲気を出さないだけ彼女は大人だ。瑠奈に言ったら「は? 同級生なんですけど」とか怒られてしまったから新鮮だった。


「急かすようなことをしまって悪いのだけれど、なんの話がしたかったの?」

「今日は竜也先輩のことではありません、佐藤先輩のことが知りたいんです」

「私の? 私と複数回一緒にいるのだから分かると思うけれど」


 基本的にそこまで明るい系ではないことや、五月や彼女みたいに可愛い系ではないことや、学力が高いと自信を持って言えない中途半端なところや、コミュニケーション能力が低いというわけではないが必ず話す人は瑠奈か五月ぐらいしかいないことなど、知っても無駄にしかならない情報が多かった。

 自分のことだからこそかかるマイナス補正なのかもしれないものの、仮に知ったところでなんににも使用できないことだから高橋君といた方がいいというのが正直な感想


「佐久間先輩から聞いたんですけど、田中先輩が好きって本当ですか?」

「ええ、私達は付き合っているわ」

「そ、そうなんですか」


 男の子を好きになっている身としてはおかしいことのように思うかもしれない。

 けれど好きになってしまえば性別の壁なんかどうでも良くなるものだ。

 色々と諦めなければならないこともあるかもしれないが、この好きという気持ちを優先することが悪いことだとは思えない。これもまた自分がその立場だからこその考えかもしれないが。


「紫乃、明日から家に住むから」

「え」

「大丈夫、紫乃のお母さんとお父さんには言っておいたから」


 え、いつの間にかそういうことになっているらしい。

 同居人だからと優しくしていたらまた瑠奈に押さえつけられることになりそうだ。

 もしかして今日のもそれで? 私としては五月ともあと1年しかいられないから一緒に住めるということならそうしたいところだけれど。


「あのっ、私も行かせていただいていいですかっ?」

「ええ、狭いところだけれど」

「大丈夫ですっ、流石に住ませていただいたりすることはないですから」


 流石に4人は無理だ、そもそも寝るところが現時点でなくて困ることになるわけだし。

 五月は足を止める可能性があるからきちんと腕を優しく掴んで連れて行くことに。

 あれ、なんで当たり前のように五月を連れてきたのだろうと困惑している間に家には着いて、鍵を開けたら五月が自分の家のように山本さんを家の中に招いていた。


「……やかましい」

「遥を連れてきた」

「は……なんでそんな子を連れてきたのよ」


 瑠奈はこちらではなく五月を睨んでいた。

 山本さんが慌てて「私が無理やり頼んだんです!」と庇おうとする。

 嘘をついているわけではないと考えを改めたのかそれ以上言おうとはしなかった。


「ここで田中先輩と一緒に暮らしているんですね」

「ええ、そこまで広くはないけれど満足しているわ」

「大切なお友達と一緒に暮らせるっていいですねっ」

「喧嘩をしたときなんかには通常時よりも大変だけれどね」


 五月も住むと言ったら瑠奈はどうなるのだろうか。

 考えてみたら今日のお昼休みまでは五月も来ていないし、なんなら瑠奈の方はずっと突っ伏したままだったから報告しようがない。そもそも仮に言う気があるのなら私に先に言うだろうから。


「家事をやるのは佐藤先輩ですか?」

「最近はこの子と交代交代でやっているわ」

「田中先輩もできるんですね、正直に言って羨ましいです」


 中々後からだとやる気が起きるまでに時間がかかるのも確かなことだ。

 残念な点はやろうとしなければなにも変わらないということ。

 けれど下手だからとか考えて行動に移せなかったりもするから難しいことだった。


「それよりあんたなにしに来たの?」

「佐藤先輩のことが知りたかったんです」

「高橋に振られた女がどんな人間か気になっただって?」

「ネガティブな方に捉えすぎですっ、そんな酷いことはできませんよっ」


 そう、そんなことをしても意味はない。

 だって私にとっての特別はもう彼女だからだ。

 抱きしめることやキスすることを許しているのは彼女だけだから。


「瑠奈、いらいらしているところ悪いけど明日からここに住む」

「は?」

「紫乃の両親にも説明してある、問題もない」


 ああ、部屋内の温度が下がっていく。

 山本さんはいてはならない場所だと判断したのか「ありがとうございました!」と口にして出ていってしまった。こちらは申し訳ない気持ちでいっぱいだ、せっかく勇気を出して来てくれていただろうにと。


「紫乃、あんたは許可してんの?」

「両親が住ませてもいいということならそういうことね」

「ま、五月ならいいか」


 あ、意外にもすんなりと納得してくれた。

 私というか私の両親の家なのと、住ませてもらっている立場だということで表面上だけは納得したかのように見せておく方がいいと考えたのだろうか。


「あなたは今日、どうしてずっと突っ伏して寝ていたの?」

「あんたが他の女と仲良さそうにしていたから」


 確かに五月と山本さんが来る前はクラスメイトの子と話をしていた。

 この前チョコクッキーを渡したのがいい方向に働いたのだろうが、瑠奈からすればそれが大変面白くない結果に繋がってしまったわけだ。

 

「瑠奈、学校ではあと1年しか五月と会えないからいい?」

「……どうせあたしが嫌って言っても言うこと聞かないよこの子は」

「ごめんなさい、少し卑怯な言い方だったわよね」


 彼女を困らせたくて言ったわけではないことを分かってほしい。

 それでもここでもう1度いいのだと聞いておかないと私が気になってしまうから。


「五月はどこで寝る?」

「床でいいよ」

「「え゛」」


 これには私も驚いてしまった。

 また必殺攻撃、やだ! で間に寝てくると思ったから。


「別にふたりの邪魔をしたいわけじゃない、ぼくが間に寝ていたらキスとかしにくいでしょ?」

「な、なに言ってんのよあんたは……キスなんてあたし達は別に……」

「隠しても無駄、だってここはちょっとえっちな匂いがする」


 ……小さい子がえっちとか言うと犯罪臭がやばいのは何故だろう。

 流石に学校に行く前にキスをすることなんかはしていない。

 大抵は朝ご飯をどちらかが作って、食べて、準備をして行くだけだ。

 出ていく前に抱きしめ合うぐらいはするかもしれないが、大丈夫、朝から不健全ではない。


「キスしかしてないから!」

「やっぱりしてた、だからぼくのことは気にせずにしてくれればいい」


 もうこうなった時点で私達の敗北は決まっている。

 冷静に対応しても事実だからどうしようもないし、彼女のように感情的になってしまったらそうだと言っているようなものだから。


「でも、お布団がないのよね」

「大丈夫、明日持ってくるから」

「それなら良かったわ、ご飯とかは私達が作るから安心してちょうだい」


 忘れそうになるけどこの人は先輩だ。

 別に苦労しているとかではないのだから頼ってくれればそれで良かった。


「じゃあそろそろ帰る、色々と準備をしなければならないから」

「送っていくわ」

「大丈夫、瑠奈の相手をしてあげて」


 ああ、彼女は本当によく見ているのだ。

 五月は出ていき私達ふたりきりになった。


「ありがとう、受け入れてくれて」

「……あたしの家じゃないから」

「でも、安心してちょうだい、私が好きなのはあなただから」

「うん、あたしも少し成長したからそれは分かるよ」


 これからは少しやりにくくなるのでいまの内に沢山抱きしめておくことにした。

 そうしたらベッドに押し倒されて、今回はしていいとかしたいとか言わずにされて。


「禁欲なんて無理よ……あたし達は付き合い出したのに」

「ある程度は自重しなければならないから、またえっちな匂いがするとか言われても嫌だし」

「分かっているんだけどさあ……今回は紫乃から好きって言ってくれたから尚更……」

「大丈夫、それでも私の心はあなたに惹きつけられているから」


 もっと健全な手を繋ぐことや抱きしめたりするだけでもいいのだ。

 普通に座って彼女の手を握る。


「告白のこともそうよ、あなたの中にはないんじゃないかって不安になっていたから、私ばかりが意識させられているのは不公平だって考えていたから尚更、ね」

「なわけないじゃん、寧ろ積極的に甘えてくれるようになって嬉しかったんだから」

「ええ、だからありがとう、あなたの彼女になれて良かったわ」


 この先も問題は起こるかもしれない。

 それで致命的になって離れ離れになんて可能性も0ではない。

 けれどいまのままなら、彼女がこうして側にいてくれるのなら。

 私は私らしく彼女と上手く仲良くしていけるのではないかと、こっちを微笑を浮かべながら見てきている彼女を見つつそう思ったのだった。

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