第5話 こんなはずじゃなかった。

ロイドとの決闘、北スラムの支配者ボスの継承から一か月が経った。


まず言わせてくれ…。

「こんなはずじゃなかった。」


ここ一か月の動きを説明しよう。

まず、ロイドの部下の大半は大人しくヨシヒロに従う姿勢を見せた。数人は納得できないと決闘を挑んできたが、全員ねじ伏せたら大人しく従ってくれた。この辺りは「力こそ権力」のスラムの掟のおかげだろう。


このゴタゴタが落ち着いてすぐに元々の目的であった「孤児の支援」と「自由な活動の容認」を行った。具体的には、孤児院の設置と経済活動の届け出制度だ。


孤児院の設置には意外にも市街地にある教会の司祭が興味を持ってくれた。ヨシヒロと教会の合同で孤児院を設置して、孤児たちの支援を始めた。協力してくれた協会は「ノア教」というアララトで最も信者を抱える宗教だそうだ。


経済活動の届け出制度は自由とは真逆の取り締まり行為に感じるかもしれない。しかし、元々のロイドの治世では最も献金した者がその活動を独占できるという体制を取っていた為、自由な活動とは程遠いものになっていた。この体制を打破するための届け出制度だ。勿論、届け出は悪質な物を除き容認するし、誰かを贔屓したりはしない。この制度で皆が自由な活動ができ、元々のヨシヒロ達の様に盗まないと生活できないという人は減る筈だ。


この二つの改革が別の問題を引き起こしてしまった。

孤児たちの支援を行った事でスラム中の孤児たちが、自由な経済活動の容認によって自由に活動を抑圧されて不満を抱えている人たちが大勢ヨシヒロの支配地のスラムの北側に移動してしまったのだ。この状況に東・西・南のスラムの支配者ボスが不快感を示し、抗争の一歩手前まで発展してしまった。

この状況の対応方法には様々な方法があった筈だが、ヨシヒロはロイドの献策「攻め込まれる前に、支配者の本拠に行き決闘して黙らせる。」を採用した。攻め込まれると無関係の人に被害が出るし、攻め込んだ方が早く終わり早期安定化ができるというロイドの説明に納得したからだ。しかし、ロイドは1つの情報を説明しなかった。支配者との決闘はその地位を手に入れる為に行われるというスラムのルールが支配者間にも適用される事だ。決闘は支配領域の拡大にも使われていたのだ。


ヨシヒロはその事を知らずに東・西・南のスラムの支配者に決闘を挑み、勝利した。必然的に、スラムの全てがヨシヒロの支配下となった。


ロイドはしてやったりとニヤニヤしていたし。すぐに支配領域を広げる気がなかったヨシヒロは騙されたと悔しい顔をしていた。


「こんなはずじゃなかった・・・・。」

と、ヨシヒロは呟いた。





______________________________




そして今、新しくスラムの中央に建てられたヨシヒロの二階建ての家の1階にヨシヒロは居た(因みに二階は、ヨシヒロ・パウ・ルベン・リケの部屋が1部屋ずつある。)。

その目の前にはロイドを含めた元スラムの支配者たち4人とが平伏しており、その後ろにパウ・ルベン・リケが立っている。


「ヨシヒロ、お前は不服かもしれねぇがアルフレッド王国第二都市スチュートのスラムはお前のモノになった。気分はどうだ??」

笑いながらロイドが尋ねる。


「最悪だよ。もう少し身軽な立場を堪能したかった。」

苦笑いしながらヨシヒロは返答した。


「ロイドさん、ヨシヒロを虐めるのはその辺で。本日は急激に支配地が増えた為に、今まで通りの行き当たりばったりでは立ち行かなくなると思い、皆さんに集まってもらいました。」

現在はヨシヒロの参謀役をしているパウが述べた。


「どんな事を話し合うんだ??パウ。」

意外とロイドと気が合ったらしく稽古をつけてもらっているルベンが尋ねた。


「このスラムをどのように纏めていくか、孤児院を共同で開設したノア教とどの様に関わるか等々問題が山積しています。」


「確かに、ノア教の人達はいい人だけど慎重に関わった方がいいと思うなぁ。」

孤児院を通じてノア教との話し合いを担当しているリケが意見した。


「そうだね。僕もそう思う。でも、これらの問題の前にすぐにでも解決したい問題があるんだ。」

パウは続けて言う。

「ヨシヒロが世間知らず過ぎる事だよ!!!」


パウの言う世間知らずとは非常識という意味ではないだろう。国内や国外の情勢に無知過ぎるのだ。勿論、その理由は元々この世界の人間ではないからだが、ヨシヒロはそのことを誰にも伝えていないため世間知らずと感じたのだろう。


「うっ、おいが知らないことが多いのは否定できない…。」


「だから、まず今日は国内外の情勢を教えようと思うんだ。ロイドさん、お願いしてた物は持ってきてくれた?」


「おう!これでいいか?」

そう言いながらロイドは地図を開く。


その地図には『デレオン半島南部』と大きく書かれていた。



「この地図はアルフレッド王国周辺の『デレオン半島南部』が書かれている。今僕たちが居るのは国の北にあるアルフレッド王国第二都市スチュートだ。ここは元々アルフレッド王国一の勇将“レオンハルト公”の領地だったんだけど、5年前に王弟“カンドー・アルフレッド”という新たな領主がやってきたんだ。ここまでスラムが大きくなったのも王弟カンドーの愚政のおかげだね。」

皮肉を言うパウにロイドが付け足す。

「レオンハルトが領主の時は、俺ら無法者にも良くしてくれた。いい領主だったよ。」


「現在、そのレオンハルト公はサイプレス高原国への進行を控えている。スラムにまで募兵しに来てたでしょ?王国の北側で集められた兵はレオンハルト公の下で高原国の要衝“ヘブン平原”を攻める予定だというのがもっぱらの噂だ。この戦には、アルフレッド王国の同盟国である“ベロ商業国”の傭兵団も援軍に駆け付けるらしい。この戦の行方には注目だね。」


ヨシヒロは次々に情報が与えられたので、レオンハルト公率いるアルフレッド軍と高原国の戦争、援軍に同盟国ベロ商業国の傭兵団、の様に箇条書きに記憶していった。


「とりあえずこの辺かなぁ。何か質問ある??」


「後で、戦の情報だけ詳しく教えてくれ。」

参戦するわけではないが、この世界の戦について興味が沸いた。


「OK!じゃあ次は王国内の派閥争いに・・・・・・・」


ギギィ――。パウの話を遮るようにドアの開く音が響いた。

そこには教会の関係者らしき人がいた。


「誰だお前!いま取り込み中なんだよ!」

ルベンは注意する。


「ルベン!この方は孤児院を手伝うために来てくださったノア教のアンさんだよ!」

リケはアンに会釈しながら、皆にアンを紹介する。


「リケさん、ありがとうございます。そして、ヨシヒロ様お初にお目にかかります。ノア教修道女のアンと申します。本日はお伝えしたい事がございます。」

アンはヨシヒロの目を見つめながら話す。


「ノア教には孤児院のことでとてもお世話になっている。伝えたいこととは?」

ヨシヒロは先程までのリラックスした話し方ではなく、外向けの態度で対応した。


「ノア教アルフレッド王国スチュート教会司祭が今現在、孤児院に来ています。ヨシヒロ様との面会を希望しています。」


「この街の教会の指導者に会えるなんて光栄です。今すぐ向かいましょう。」

ヨシヒロはアンに返答をし立ち上がる。

「リケ、ロイドは付いてきてくれ。残りの者はパウを中心に他の話題を論議してくれ。」


ヨシヒロはリケとロイドを引き連れ、アンの案内で孤児院に向かった。

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