第2話 落武者
俺の名前はヨシヒロ。ここアララトに転移する前は、日本の戦国時代で暴れに暴れ、戦国最強に至るまで戦い続けた島津義弘という武将だった。そんな強さを極めた人生が終わったハズだった。死んだ直後、俺はその強さを見出され、ベルゼブブという天使によってこの世界にやってきた。赤髪高身長のイケメンに人体を改造されて…。そして今日もこの世界を楽しく生きている。
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「泥棒だ!また、あいつらだ!だれか捕まえてくれ!!!」
アララトにやってきて2・週・間・が・経・っ・た・。・新しい生活はどうだって?最高だね。薩摩では領主という立場や、大名の息子・弟という立場から本当の意味で自由な生活ができた事は人生を通じて一度もない。さながら落ち武者のような姿で、自由奔放にスラム街を駆け巡る。人の目を気にしないとはまさにこのことだ。今現在も、魚屋からスズキの様な魚を盗んだのがばれて絶賛逃亡中だ。スラム街は治外法権、安価での働き先しかない孤児たちが腹をいっぱいに満たすにはこうするしかないのだ。
この2週間で知ってことを簡潔にまとめよう。まず、基本的に周りの建物・道路・食べ物など全て西洋風だ。そして、ここはデレオン半島南部の国“ア・ル・フ・レ・ッ・ド・王・国・”の第2都市“スチュート”。空から落下して落ちたのはこのスチュート近郊の森だ。そこで気を失っていたところを同い年=16歳の3人組、パウ、ルベン、リケに助けてもらった。彼らはスチュート市内の南東に位置するスラム街の中の孤児たちが集まるエリアに住んでおり、3人も孤児であった。
パウは、3人の中ではお兄さん的存在だ。他の孤児達からも慕われていて、この孤児たちが住むエリアの実質的なリーダーだ。しっかりとしているし、大人びている事から、最も話が合う奴だ。
ルベンは、一言でいえばクソガキ。パウと同い年とは思えない。でも、ムードメーカで面白いやつだし、仲間を思う気持ちは強い。言動や素行は褒められたものではないが、なんだかんだでいいやつだ。
リケは、皆の妹のような存在だ。気はそれほど強くないが、皆に合わせるために頑張って強気に見せている節がある。かわいらしい見た目だし、皆からの人気は高い。いつもルベンと喧嘩をしている。
彼らと親交を深め、今は3人住む家(家といってもほったて小屋の方が幾分かましと思えるほどの簡素なものだが)に居候している。今だって仲良く4人で逃亡中だ。
「上手くいったな!ヨシヒロ!」
「あぁ、ルベンが気を引き付けてくれたからな。」
「ちょっと!私も気を惹きつけてたでしょ!」
「まぁまぁリケ、俺の方が上手だったからな!」
いやー、自由って素晴らしい!!
追っ手を引き剥がし、家へと凱旋する。
「今日は大漁だね、ルベン!」
「魚釣ってねぇけどな!大漁だ。」
リケとルベンは家に着くなりはしゃぎだした。そんな中、パウは1人不安そうな顔をしている。
「どうしたんだ?パウ、不安そうな顔して…。」
「ヨシヒロが来てから、盗みも上手くいくようになって、僕たち孤児でも腹を満たせる日も増えた。でも、少し目立ちすぎじゃないかな?ロイドさんに目をつけられたらこのスラム街でも生きにくくなると思うんだ。」
「ロイド?誰だそれ。」
「ヨシヒロ、お前ロイドを知らないのかよ!この家がある場所もロイドの統治下だぞ?」
ルベンがヨシヒロの無知を笑うかの様にそのまま続けて説明してくれた。
ルベンの話を聞いてみれば、“アルフレッド王国”の第2都市“スチュート”のスラム街は東西南北に1人ずつ元締めがいるらしく、この家があるスラムの北側はロイドという男が治めているということだ。勿論、治めていると言っても、領主や国に任命されたわけではなく腕っぷしで手に入れた地位だ。多少の小さないざこざならロイドも見て見ぬふりをしてくれるらしいが、頻繁に同一人物による盗みが起きると、みせしめとして成敗されているみたいだ。闇市からの徴収もロイドの収入の一つ、見逃し続けることはできないのだろう。
うーん、どうすべきか。盗みを自重して、時が過ぎるのを待つ?いや、それでは満足した生活を送れない。そもそも天使ベルからの依頼の1つは俺が強くなり、支配領域を広げることだ。スラム街の一角を統べる男にすら縮こまっている様じゃだめだよな…。
「それなら、目を付けられる前にロイドって人に喧嘩売りにいこう。」
意気揚々とヨシヒロが宣言すると、3人は驚愕した表情を浮かべる。
「ロイドは喧嘩負けなしの最強の男だぞ?6年前にスラムの北側を支配下に置いてから、数々の喧嘩自慢が挑んだけど、一度も負けてない…。」
心配そうに声をあげるパウに、自信満々の笑顔で答える。
「大丈夫さ。おい達は強い。誰にも負けないさ。」
こっちは前世で60年以上戦いばかりの人生だったんだ。こんなスラムの支配者で奢ってるような奴には負けないさ。
「善は急げだ。今から行こう。何か武器はある?」
「私達は本物の剣は所有が認められてないから、木の練習用の剣しかないよ?」
「それで十分!さぁ、ロイドのところに案内して!下克上の始まりだ。」
パウとルベンは下克上という聞きなじみのない言葉に疑問符を浮かべながらも、覚悟を決めてくれたみたいだ。リケは木剣を握り締めながら最後まで不安の表情を浮かべていたが、ヨシヒロが近づき頭をポンっとなでると決心した顔をして木剣を渡してくれた。何故だか顔が赤くなっている、気分が高揚でもしているのだろうか…。
おいたち4人は木剣を携え、スラムの北の
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