フィクショナル・ノア〜戦国最強、2度目の人生でも異世界最強です。

古屋芭音

墜とす天使と墜ちる武者

第1話 人生ってお疲れ様でした!

ギリシャ風建築の大きな部屋の真ん中には大きな円卓が置かれ、10脚の椅子に9人の白人、黒人、黄色人種など様々な人種が着席している。不安や期待、いら立ちなど様々な気持ちが入り混じった面々の中でも1人の白人の男性が我慢の限界とばかりに声を上げた。


「まだなのか、ノ・ア・の若造は……。我々を待たせるとは何事だ!」


「まぁまぁ、時間にルーズなのはいつものことでしょう。」


「生意気な若造め…」



ギィ…とドアの開く音がこの部屋に響き、皆がドアの方へ視線を集める。


「皆さん、お待たせしました。」


そう言いながら、白人男性に『ノア』と呼ばれた男性は円卓に歩を進める。そして、最後の椅子に着席するやいなや、高らかに宣言する!!


『さぁ、ラ・グ・ナ・ロ・ク・をはじめましょう!!!!!!』


部屋は大きな拍手に包まれた。






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日本の戦国時代において最強は誰か?


織田信長?    否。


上杉謙信?    否。


本田忠勝?    否。



薩摩の戦国武将【島津義弘】である。

数々の数的不利の戦をひっくり返し、広大な九州統一まであと一歩に迫り、朝鮮出兵の際には10万もの敵兵を僅か2000人で圧勝し、天下分け目の関ヶ原では徳川本陣に迫り退却し幕末に名を轟かせる薩摩藩の礎を築くなど、鬼と評される彼の武勇は語り切れない。


そんな島津義弘も老いには勝てない。

1619年、その時代確かに最強であった男は天寿を全うしようとしていた。多くの家臣、親族に囲まれながら…


「天地の 開けぬ先の 我なれば 生くるにもなし 死するにもなし」


享年85



自分の死を悟り、ゆっくりと目を閉じる。

徐々に大切な家族、家臣の声が遠くなっていく…。




……………………………………。



…………………………………………………………………………。




「シマズ、、ヨシヒロさん??であってるよね?人生お疲れさまでした!!」



………………………!?



全く聞き覚えのない子供の声を聞き、思わず目を開ける。


するとそこは先程まで居た武家屋敷ではなく、上・空・に・い・た・。そして自分は落下している。いや、屋敷が頭上にあり離れていく、自分が空に昇っているのだ。脳内パニックに陥りながらも、目の前の羽が生えた子供に気づき、さらに困惑する。


上空に羽の生えた子供と自分の2人だけがいる。それだけは理解できる。



「あれ?シマズ、、ヨシヒロさんだよね?あれ、間違えちゃったのかな、、、」


「おいは確かに島津義弘じゃが、わいは何者や??」


「あー、ちょっと待って!日本語はしゃべれるし、リスニングもできるけど流石に方言は範囲外だなーーーー。先に言語変えちゃうね!」


羽の生えた子供が近づき、指を島津義弘の額にあてる。羽の生えた子供の指が発光する。


「ま、眩しい。………………………。え、いやそれよりも、おいの声が。」

そう言葉を発した島津義弘だが、その言語は聞き覚えがないものだ。自分が発した謎の言語に困惑していると、


「ははっ、予想外。一人称は俺とか僕とかじゃなく、おいのままなんだね。まぁ、いきなりごめんね!君の言語を日本語から僕たちの言葉〝アララト語〟に変えちゃった!うん、成功しているみたいで何より!!」


羽の生えた子供の発する言葉も自分には理解できていた。自分では理解できないほどの超越した力を持つ目の前の子供や空に浮いている自分など、島津義弘の脳はパンク寸前だ。


「僕は、天使のベ・ル・ゼ・ブ・ブ・!いやー、死んだばかりなのにごめんね。どうしてもヨシヒロさんに僕達の世界に来て殺してほしい人がいるんだよね!」


ん?天使?ベルゼ、、えーとその後の名前はなんだ?え、やっぱり死んだ後なの?うん?殺してほしい? 心の中で色々な疑問が浮かぶ。

ここで島津義弘の脳はパンクした。


うん、もう深く考えることはやめよう。驚き疲れたし。そう決めた。


「えーとベルゼぶう君?殺しの依頼なら、こんな年を取った老人より適任者がいるんじゃないか?」


「〝ぶう〟じゃなくて〝ブブ〟!天使のベルゼブブだよ。呼びにくいならベルって呼んで!」


ベルゼブブか、、、、天使はキリシタンからきいたことあるな。


「さすがに、85歳の死んだばかりのヨシヒロさんには頼まないよー!」


そう言い笑いながら近づいてきた。先程の様の額ではなく両手で島津義弘の両肩に触れる。


「うーん、とりあえず16歳ぐらいかな? 日本人は身長低いよなーー、伸ばしとくか。180ぐらい?いや、高すぎるか?まぁいいや。 あ、そうだ。もっとイケメンにするか。あ、坊主頭じゃ、パッとしないな。髪の毛を生やそう、どうせなら赤色にしちゃう? おー!いいね! 僕天才!」


え?え?え?え?なんか体がむず痒い。ベルが言っていることが本当なら人体改造されてるのか?え、こんな気軽に?視認できる範囲でも、髪の毛が生え、赤く染まっていたり、手のしわが少なくなっていくことからも、自分の体が若返り、そして人体改造されているのだと確証を持った。

驚き疲れた島津義弘でも流石に驚かざるを得ない事が起こっていた。


「よし、完成!どう?」


「どう、といわれても…。おいは若返ったのか?」


「そう!若返ったよ。ついでに、身長高くして、イケメンにしといた。あ、あと女性にもできるけど、する?」


「さ、さすがに遠慮しとこう…。」


女への性転換に興味がないかと聞かれれば嘘になるが、これまで培ったものを失う気がするし、それ以上に大切な物も失いそうだ。真剣に考えこんだが、ベルがいたずらが成功して喜ぶ子供の如き表情をしていた。人間を困惑させて喜んでいるのだろうか。


「あと、名前も島津義弘じゃなくて、これからは〝ヨシヒロ〟って名乗ってね。目立つから。」


島津という姓を捨てる事は、生前の自分なら死んでも拒否するだろう。しかし、一度死に島津義弘という人生にキリを付けたことや、なにより目の前の超越した存在に逆らえる気がしないのだ。しょうがない、納得しよう。

「まぁ、わかった。もう死んでいる身、島津の姓は捨てよう。」


「ありがとう!うん、準備もできたし、簡単に今から行く世界について説明するね。ヨシヒロさんが今向かっているのは〝アララト〟と呼ばれている僕たちの世界。アララトでは創世の頃から僕たち天使が空から人間の住む地上を見ていたんだ。地上に干渉するのは禁止。僕たちが破ってはいけない禁忌。でも。その禁忌は最近ある天使によって破られた。」


「それで、おいにどうしろと?その天使を俺が止めて、世界を元に戻してほしいとかそんなところか?」


「違う違う!僕は善天使にんでも、調停者でもないよ。少し強欲な天使さ。数千年間ずっと見ることしか出来なかった地上に同僚が禁忌を破り干渉した?それなら僕もそれに続くまでさ。」

ベルの顔が邪悪な笑顔になっていく…。

ヨシヒロがキリシタンから聞いた天使とはまるで様相が異なるなと感じているとも知らず、続けざまにベルは語り続ける。


「今僕がしている行為…つまり、ヨシヒロさんという別世界の人を〝アララト〟につれていく行為は禁忌ギリギリの行為なのさ。僕の天使の座すら危うい。それだけで僕が善天使にんじゃないってわかるでしょ?他の天使はその座すら捨ててまで地上に干渉し、力を得ようとしている。これは、天使のお遊びじゃない、誰が地上を支配するかという天使ぼくたちの勢力争いなのさ。」


「スケールが大きすぎてわからんが、ベル、お前ほどの超越した力と比べると、おいの力など役に立つのか?」

今までのベルの超越した力を目にしたからこその素朴な疑問だ。


「僕たちは天使は殺したり、洗脳したりとか直接的に地上に関与することは神との契約でできないんだ。禁忌を犯した天使も、人間に力を与えて、その人間による支配という間接的な関与で勢力を広げているってこと!」


「地上の人間に力を与えることは直接的な関与ではないのか?」


「鋭いね!そう!直接的な関与になるね。だから異世界から連れてきて力を与えるのが流行中なのさ。アララトの人じゃなければ契約外だからね。」


「なるほど。私がここに呼ばれた理由を段々と理解してきた。お前の勢力争いのための道具になれということだな。」


「まぁ、包み隠さず言えばそうなるね。」


「このまま、おいが素直に従うと思うのか?」


「うーん、生前のヨシヒロさんの人生を観察した限り、難しそうかな。だから無償で働けというわけじゃないよ。報酬を用意してる。」


「報酬?」


ここでベルはニヤリと笑う。

「ヨシヒロさんが前世でやり残したこと、後悔していること、なんでも1つやってきてあげる!!!」


「そんなことが、可能なのか!?」

その時、ヨシヒロの脳内には、禁止したにも関わらず殉死しようとしていた家臣達を思い浮かべていた。

ヨシヒロは少し考え、口元には笑みがこぼれる。


「わかった。先程から振り回され続けているのは癪だが、その依頼引き受けよう。具体的には何をすればいいんだ?」


「支配領域の拡大とヨシヒロさんと同じく別世界から来た人・間・を・殺・す・事…。この2つだね。」


「そこが、殺してほしい人間がいるという所に繋がるのだな。それで標的は誰だ?」


「誰といわれてもなー。僕も知らないんだよね。」


「標的を知らずに、どうやって殺せばいいんだ?」


「うん、標的を探すところからお願いね!」


「そんな無茶な…………。」




「他に聞きたいことはある??」


「聞きたいことは膨大にありすぎて纏まらん。とりあえずは大丈夫だ。」


「OK!じゃあ、これからよろしく頼むよ。僕の相棒として末永く宜しく~!」


「調子のいいやつだ。」

ヨシヒロに笑みがこぼれる。死んだ後にとんでもないことに巻き込まれたものだと笑えてきたのだ。しかし、人生を戦に捧げたヨシヒロにとって、死後も戦う場所を与えられたと考えれば悪くはない。このアララトとやらの世界でも武勇を轟かせようと決意する。


「さぁ、もうすぐだよ、ヨシヒロさん。ようこそ!アララトへ!」


先程まで頭上にあった武家屋敷から空を昇っていた筈だったが、気づけば真下には森と街、大きな川が出現し、空を落ちていた。


「とりあえず、だれにも負けないくらい強くなってよ。ヨシヒロさん。じゃあ、がんばって!」

そう言って、ベルは目の前から消えた。


「え、待て!ベル!このままじゃ、森に落ちてまたすぐ死ぬ!!!」




どすーーーん!!


そのまま森に落ちて、意識がもうろうとするが、命に別状はないみたいだ。いや、あの高さから落ちて即死しないのはおかしい。ベルが何かしたのだろう。


朦朧とする中、目の前から3人の青年たちが会話をしながら近づいてくるのが見えた。




「ねぇ、今の音何?」


「こっちの方から何か落ちる音がしたぞ!!」


「え、、、ちょ、人???」


「空から人が??」



そんな会話を最後に聞きながら、ヨシヒロは気を失った。





薩摩の義弘が死に、アララトのヨシヒロが誕生した瞬間だった。

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