第5話 聖騎士の異名
あの後、
『誰が手助け受けていいっつったんだよ、え? 渡良瀬君よぉ!』
予想通り春風先生の怒りを買ってしまい、挙句の果てには僕の手助けをしてくれた面々までもが連帯責任として停学処分を食らう羽目になってしまい、そのせいで僕は
両親から散々な扱いを受けてしまった(とは言え、母親からは怒鳴り散らされ、父親
からは軽く二、三発ぶん殴られた程度で済んだのだが)。
――やれやれ。
お陰で停学は継続のまま7日後の今日、やっとまた妹と共に登校出来る。という訳
なのだが――
「よう渡良瀬。久しぶりだな。待ちくたびれたぜ? ほら、とっとと体育館行けよ」
春風先生が誰もいない教室で僕を待ってくれていたらしく、それは今日がある人達への表彰式をおこなう日だかららしい。
――だからって、別にそこまでしなくても……、
そんなふうに思っていた僕に、先生はこう言った。
「よくやったな? 渡良瀬」
決して笑う事のないその綺麗な顔に、心なしか、どこなとなく、微妙ながら笑みが
浮かんでいるように見えた……のは、或いはやはり僕の気のせいだろうか?
「確かにあんたはあたしの指示に逆らった。だが、それでも課題は課題で達成はして
いる。それも仲間1人殺さずにだ。まぁ確かにあやめはある種の重傷だったが、それでも、今回の場合は相手が相手だったから命は奪われずに済んだ。それだけで充分に合格点だとあたしは思う。そうだろ? 渡良瀬」
だからっていつも言うように調子には乗んなよ? そう言って、「ったく、マジで
怠いぜ」と一言ぼやきつつ、僕を置いてその場を後にした。
――けっきょくは怠いんじゃん。
――ま、いいけどさ?
「ありがとうございます。春風先生」
――っと、こうしちゃいられない。早くいかないと。
慌てて鞄を机に下ろし、僕も教室を後に、急いで体育館へと向かった。
――あれ?
体育館に到着してすぐ、僕はある事に気づく。それは僕達Zランク5人分の椅子が何故かA ランクのすぐ後ろに並べられていた事についてである。
「まさか……」
「そう、そのまさかだよ」
背後からそんな声が聴こえてきた。そこにいたのは美優先輩だった。美優先輩はあ
の時と同じようにニコニコと笑い、「あの時は格好よかったよ?」と褒めてくれた。だが、
――それでも、僕はあやめちゃんを傷つけてしまった。せっかく自分のほうから、
それもこの学園に入学して初めて声をかけてくれたあの子を、僕は……、
「先輩」
「何?」
一瞬だけ躊躇ったが、しかし腹を括り、僕はこう訊ねてみた。
「どうすれば、僕はもっと強くなれますか?」
すると、「多分、その時点でもう弱いのかもね?」という応えが返ってきた。
「『己の強さを求めている時点で弱さを認めている証拠』っていう言葉もあるよ?」
「……そう、ですよね」
まさにその通りだ。訊ねてみた側でありながら、確かにそうかもしれない。まして僕は自分の能力さえも知らない存在だ。
――唯一解ったのは、相手からの攻撃、または本来であれば痛みを感じる衝撃など
を受けても平気でいられるという事くらいだよね?
「ありがとうございます。美優先輩」
「うん。っと、そろそろ始まっちゃうみたいだね?」
急いだほうがいいよ? そう言って、美優先輩は僕の元を後にした。
「……さて」
――僕も自分の席に移動するか。
「……あんなのが、この私を差し置いて……許せない……」
昼休み、僕とあやめちゃんはいつものように屋上で昼食を取りつつ適当な雑談を交わしていた。そして、ふとした場面で、唐突にあやめちゃんが僕にこんなことを言ってきた。
「もう、無理はしちゃ駄目だからね?」
食事を口に運ぶ箸を止める事はせず、半ば無邪気な感じに、だがやはり、真面目に
僕の目を見て忠告してくれたこの子に対しては、何となくだが頭が上がらないな。と
思ってしまう僕がいた。
「解ってるよ、ありがとう。あやめちゃん。ところで、怪我はもう大丈夫なの?」
「うん、全然大丈夫。まぁ、確かにまだ少し痛むけど、所詮はアレだってただのまやかしだし、あたしに喧嘩売った時点でいつかぶっ殺してやるだけの話だから。それから――」
「……」
――聞かなかったことにしておこう。
この子にも散々迷惑をかけてしまっている分、これからは僕のほうがこの子の役に
立てるようになりたいなと思いつつ、食事の手を止めないように集中しながら、再び
他愛もない会話の続きを始めた。
その日の放課後、以前に引き続き、またもや厄介な来客が直接僕達の教室に土足で
踏み込んできた。
「渡良瀬錬磨君という人はいるかしら?」
――誰だろうあの子?
しつこいようだが相手はやはり女の子で、だが今度の少女は西洋風の美人だった。
その証拠に、髪は腰までの長さで白に近い綺麗な青色で、眉毛は細く手足はスラリと長い長身でそして、自分の身長程はありそうな剣を携えた少女がそこにいた。
――けっこう可愛いし、少し変な言い方だけど、胸もそれなりに大きくてスタイル
抜群な女の子が、僕なんかに何の用かな?
薄々は感づいていたが、しかし或いは他の用事という可能性も否定は出来ない為、
僕はあえてその子の誘いに応じてみる事にした。
「僕だけど、キミは?」
僕が素直に顔を出すと、その子は唐突にその剣を鞘から抜き、僕に向けて突き出してきた。
「わたくしは、この学園の第3学年に所属する、アイリス・フィアリィ・ドゥ・ジ・
エンペラー。《
得意とする、《
も頂いているわ?」
そんなすごい子が僕なんかにどうして勝負――雰囲気で察した――を申し込んでき
たのだろう? そんなふうに思っていると、
「これは先輩命令であり、尚且つこの学園では上級生の命令は絶対特権。故に拒否権などはない。解ったわね? 渡良瀬錬磨」
その言葉に対しては流石にほんの少しばかり動揺が走った。当たり前である。何せ
百歩譲ったところで相手は武器を持っているがこちらは素手で、故に、例え先程美優
先輩から強さがどうだのと言われたばかりとは言え、これでは力云々ではなくなって
しまう。
――勝ち目なんてある訳ないじゃないか!
「ちょっと待って、その、ください。幾ら何でも唐突すぎます! だって、あなたは知らないだろうけれど、僕は自分が何の能力に選ばれたのかも解らないうえに相手で
あるあなたは武器を携えている。それはあんまりだとは思いませんか? もしそれが
自分自身だった場合の事を考えてくださいよ! それに――」
「許可なら得てあるわ? 無論、学園長先生からね?」
「なっ……チッ!」
――これでは本当に拒否権なんかないじゃないか。
――クソッ!
「解ったら今すぐグラウンドにある
「……解りました」
けっきょくほぼ強制的に再びドンパチする羽目になってしまった(おまけに今度は
幾ら先輩とはいえ仮にも女の子相手に)。
「さて、それじゃあ早速」
「その前に、ひとつだけ訊ねておきたい事があります」
舞台に立ってすぐ、僕はあらかじめ決めておいた、その確認事について訊ねてみる
事にした。
「もしも僕が負けた場合、その時は一体どうなるのですか?」
その質問に対してアイリス先輩は、「いい質問ね?」と返答した。
「逆に、このわたくしが敗北した場合、あなたにはわたくしが有している最上級特待
生を名乗る権限を与えてあげるわ?」
「……え?」
――聞き間違いだろうか? 今先輩は何と言ったのだろう?
「すみません、もう1度言って貰えますか?」
「わたくしの最上級特待生としての権限をあなたに譲ると言ったの。三度目は言わせないでちょうだい」
「……あの、流石にそれは拙いんじゃ?」
「問題ないわ? それについても許可は得てあるから。ただし、相応の覚悟を示せ。
とおっしゃられたけれどね?」
――そりゃそうだ。
「それでは、もうひとつだけ」
「何かしら?」
情けないとは思いつつも、僕も僕で腹とタカを括り、こう言った。
「どうかお手柔らかに」
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