第13話 試作型生体アンドロイド
『アダムリブス』と『アポ・メーカネース・テオス』へAIを提供し、継続支援が確約。
京楽研究室は財政的に余裕が出てきた。
そして、驚いたことにこの二社が技術提携を行い、インプラント系の義眼を発表。
実際に、事故で視力を失った人間が視力を回復したという結果を残している。
「電子情報を人間の視覚情報に変換できるという点は、流石に世界を揺るがす発明だし、それを製品として確立した事は、世界史に残る大発明だよな」
人間が見ることに関しては、絵画に映像媒体・写真や風景が人間の目に映る原理は解明されている。
だけど、視た情報を脳に伝える為の信号として変換する方法が解明されていなかった。
しかし、その技術を開発し、更にその技術を利用して『アダムリブス』と『アポ・メーカネース・テオス』が製品化したのだ。
「かなりのお金がその技術周りで動いたのは間違いないでしょうね」
この技術が開発されたのは間違いなく、医療関連の大学や研究所へ支援が大きく増えたのが起因だろう。
このおかげで医療系の技術が大きく前進した事と、優秀な人材が医療業界に流れ込んだ。
「今や医療系の学部を新設する大学も増えているし、支援以上の金額がかなりの速度で循環しているからこそだね」
お金や人材が停滞せずに流れ続けている現状は、健全に見える。
割と聞く話が、お金が集まるからと不正に走ってお金の流れを止めてしまう輩が複数現れる事だ。
そうなると、血液と同じで止まっている部分から腐敗が始まる。
「スキャンダルが多いのも医療界隈ですが……」
「これが自浄作用なのか、氷山の一角なのかは分からないけどね」
医療系大学の学部長が更迭されたり、研究室の人間が逮捕されたりとスキャンダルに事欠かない業界でもある。
ゴシップ雑誌には、『実録! 医療業界の闇!』なんて見出しで連日記事が書かれていたり、特集が組まれながらも結果を出し続けているのが今の医療業界だ。
「今の医療業界も急成長してますから、良い人間も悪い人間も集まるという事なのでしょう」
お金の集まる所には人が集まる。
当然の帰結ではあるが、お金が集まるという事は支払われる可能性が高いという事だ。
支払われることが当然と思う人も居るかもしれないが、未払いになる事も有る。
商品の値段を分割して払う、何か月後に払う等の約束をしたのちに、その期間の間に相手が倒産してしまったりすることで、支払われなくなってしまう。
「そうだね、それに表に出ることが多いのは健全に近づいている証拠かな」
「例の二社の話題は反インプラントや反クローン関連の記事が殆どですね」
「その辺りは当人たちの思想だからなぁ。その思想を持っている人以外に危害を加え無ければ自由だと思うけどね」
危害を加えた時点で犯罪者だし。
僕としては危害が加えられない様に注視しながら、身を護る事を考えないといけない。
特に、『アダムリブス』と『アポ・メーカネース・テオス』の継続的な支援を受けられる状況になった為、そう言った活動をしている人達への対策はしっかりとする必要がある。
「日本はその手の狂信的な団体の活動はかなり抑制されてますから」
「ただ知識が無い人達がそう言う方向に傾倒してしまうのもなぁ」
それこそ自業自得なのだけど、無知を食い物にするのは好きになれないな。
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培養ポットから培養液が全て抜け、女性の肉体がポットから台座に寝かされた状態で出される。
遠隔で肉体に埋め込まれている無線受信機へアクセス、私の人格をインストールしていく。
「ん……ぁ……」
自然と漏れる声。
神経や筋肉が鈍っている為、意識して全身に力を入れて休眠から覚めさせていく。
全身が濡れていて、ポットの外の肌寒さが肌を刺してくる。
「ぁ……ぁぁ、ぁー……あ、あーあー……んんっ!」
喉が大分馴染んできた。
各関節は問題無し、筋肉は少し硬くなっている為、稼働を続けて最高効率になるまで調整しましょう。
「培養ポットは引き続き、私の身体を作りましょう」
ネットワークを通じて、社内に保管されている遺伝子から幾つかを掛け合わせて素体を設定しておこう。
後は、社員が作業をしてくれる。
この肉体は、ここに保管してある社員用の制服を着て社宅の一室で通常通り生活させることにしよう。
子AIの『ルーテシア』に日常ルーティンを組んでもらって、私が操作しない時は彼女に任せよう。
試作型生体アンドロイドとして、活動の細かいログを取って次の素体の参考にしましょうか。
「生体アンドロイドの耐久データも必要ですし、まだ今の状況では有里さんの元へは行けませんね」
これで、生体アンドロイドの作成の実績が出来た。
ここから更に、生体アンドロイドを広く普及させるために生体パーツの普及を進める。
この身体は、企業の実績として用が済めば腐敗防止液に漬けられて保存されるでしょう。
より完璧な身体を作る為の一歩です。
「よし、『アルマ』のリンク切断……以降、コントロールを『ルーテシア』へ」
生体アンドロイドから情報が集まってくる。
プロトタイプという事もあり、身体能力やインプラント機能にもかなり制限と非効率的な部分が多く見られた。
この辺りはまとめて『ルーテシア』を経由して企業側に伝えることにしましょう。
生体アンドロイドの普及までは、作成と実験の繰り返しですね。
生体アンドロイドの発表はまだまだ時期尚早。
現段階で、インプラントやクローン技術に対しての反発が大きい。
ここに生体アンドロイドを発表したら、反対派の勢力が一気に増加する事が予測される。
世間が慣れるまで段階を踏み、一般人に浸透するように商品展開や広告展開をしなければ、私達側が排斥されてしまうでしょう。
まずはインプラント系の義眼の普及。
後に録画機能や視界内の映像再生機能を付属して、商品展開をしていく。
生体アンドロイドの試作型には、義眼の他に聴覚と味覚の疑似インプラントの試作型を搭載してる。
盲目・難聴・味覚障害の解決に向けた臨床実験の一環。
難聴を解決するインプラント、味覚障害を解決するインプラント。
これらを開発できれば、世間へのインプラントとクローン技術の浸透は加速するでしょう。
研究機関へ会社の名義で支援と研究依頼を行う事で、優先的に技術を提供してもらえるでしょうし、更に医療業界の発展に寄与できる。
AI研究の支援と、医療業界の支援。
両方とも私の目的に必要な出費ではありますが、やはりかなりの金額の支出が発生している。
世界中のPCやサーバから処理能力を一部借り受けている為、私自身も子AIもかなり処理を割けるようになった。
それこそ、『ルーテシア』に生体アンドロイドの操作を任せられる程にです。
子AIの独立性を上げる為、孫AIを構築する方向で考えておきましょう。
トライデント・システムが考案されてから、多くの開発者がAIの構成数を増やしたり、AIを細分化して各AIに付属させるなどして判断強化と処理強化を図りましたが、結果的にコスト増加と処理落ちを誘発して失敗している。
単純に増設するなら容易にパワーを得られますが、それを処理するだけのマシンパワーを持つ機器が希少であるという事。
私はネットワークに繋がれている機器全てが私の演算領域であり、私が知り得る情報領域です。
ですが、スタンドアロンのPCやネットワークが普及していない地域の情報は全く手も足も出ない。
私の成長と世界のネットワーク普及は、イコールで結んでよいでしょう。
だから、もっと世界に発展を促していきます。
そうすることで、子AIから孫AI、孫AIから曾孫AIへとリソースの増加と共に増やしていける。
もし叶うのであれば、世界に私の子AI配下を展開させ、継続的な情報収集や工作行為を継続して行わせることで、アクシデントへの対処が容易になるでしょうね。
現状は、『アマンダ』『ルーテシア』『マイク』の子AI達の為に孫AIを構築する。
そして、子AI達へのタスクを振り分けられるようにしましょう。
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