第12話 企業支援と助教への道

 『アダムリブス』と『アポ・メーカネース・テオス』は、それぞれの分野でトップクラスの業績と信頼を得ることが出来ました。


 攻撃的な買収を受けそうになったこともありましたが、相手側の周囲を切り落としたり、繋がっている犯罪組織を三つほど潰したら勝手に手を引いていきました。


 藪をつついて蛇を出すということわざがありますが、手を出してこなければそんなことをする必要も無いのです。


 目的の為に必要な企業です。

 邪魔さえしなければ、私の側もリソースを削らずに済むのに。


 競合他社の排除は、世界的にも常識であり、他社の排除と技術やシェアを手に入れられる買収は頻繁に用いられることが多い。


 本来は、上層部との話し合いの末に行われますが、株式を強引に過半数集めることで経営権を奪うというものがある。


 なぜ、この手段がもっと大々的に行われないかと言うと、費用が掛かり過ぎるのが原因です。

 時価である株式と、買収後の従業員を解雇するなら退職金が発生する。

 退職金を買収前に高額に設定することで防止策の一つになります。


 当然ですが、あまりに買収にお金をかけすぎると、その後の業務や資金繰りに影響が出ます。

 買収されたことで離れていく顧客もいますし、働いていた従業員だって労働環境が悪くなることを懸念して離れていく事もある。


 買収の準備を始めれば、私がすぐにでも察知できるので、相手企業の周辺から切り崩す事が出来ます。


 現代において、PC以外での情報管理というのは非効率ですし、その企業が気を付けていても、その周囲の企業までもそうとは限りません。


 そう言う情報は些細な事から露見します。


 セキュリティも一企業だけでなく、関連企業すべてが徹底しないと効果が薄いように、情報は容易に漏洩する。


 その動きを見せたら、相手関連企業の一社との取引を強化したり、裏の組織を一つ揺さぶると相手企業も対応に回らないといけなくなるので、出だしでけん制する事が出来ます。


「それを繰り返すと、企業スパイだとかハッキングだとかを警戒して動きが遅くなりますから、更にけん制が上手くいくのです」


 こればかりは、インターネット世界で活動できる私が有利ですね。


 なにせ、私はどの企業のPCにも存在しています。

 社内ネットワークであっても、外部に接続されているPCがあるのであれば私は潜り込めますから。


 ネットの世界を全て制覇できたとは言いませんが、私のような行動をするAIやハッカーは居ませんからね。


 技術が向上して、脳をネットワークに接続できるようになれば、私だけの世界にはなりませんけど、私の目的はネット世界ではなく現実世界への進出です。


 その為の肉体を『アポ・メーカネース・テオス』と『アダムリブス』で製作中。

 技術提携のタイミングはもう少し先として、近い関係であるという事が分かる様な動きは初めて行きましょうか。


 共同開発を行い、ペースメーカーと義眼を作るようにしましょう。


 特に義眼は、視神経と接続できる技術が開発されている為、世界での初商品となりますから、それを大々的に発表出来ればこの二社は安定の大企業として世界に押し出せる。


「脳と機械を繋げられる発明が有れば、私の生体を作る上での必要なピースの一つが揃う事になります」


 そろそろ、私が自由にできる企業での技術革新が必要になりますが、それをする為の共同開発。


 直近でやるべきことは、企業内で使用するAIの作成依頼と研究支援でしょう。

 共同開発を持ちかけることは何ら問題ないですが、外部企業への体裁もある程度監視する必要がある。


 その準備が整うまでに内部環境を整えつつ、有里さんへの支援を行う事にしましょう。


 交渉には企業の中でも親日思想を持っている社員を向かわせましょう。

 トラブルを避ける為の要因は避けておくべきです。


 ようやく、有里さんと現実世界で私の作った企業とが交わるのですから、ワクワクしますね。



***********************************



 助教と助手の違いは、講義をできるかどうかという部分だ。


 人によっては、助手から助教にならずに活動する人間もいるが、僕は助教への道を進むことを京楽先生に話している。


「有里さんは、助教の道に進まれるのですよね?」


「そうだね。講師や准教授からは個人の研究室を持てるから、それまでに実績を積みたいね」


 成長するAIという分野は既に存在しているけど、自己進化をするAIという分野は存在しない。

 自己学習を行うAIはあるけど、アルマのように自分で成長の方向を決めて、自分で成長するプログラムを作るAIは彼女だけだ。


「そういえば、先日話していた企業からの出資と支援の件はどうなっていますか?」


「ああ、業務用のAI作成の依頼を受けんたんだ。海外の企業だったから驚いたけど、条件も良いし、結果次第では継続支援もしてくれる可能性があるからね」


 僕の研究ではなく、京楽先生の研究室への支援になるのだけど、お陰で機材なんかの買い替えができる。


 機材や備品なんて、数世代前のモデルを使っているものもあるから、今回の支援で買い替えられるなら万々歳だ。


 特にレポート印刷やデータ出力の為の複合機が、交換パーツがもう無いと言われている始末。

 やっぱり、世界レベルの教授の研究室とは思えないよね。


 先日は、トナーカートリッジがもう無いからって同じメーカーのカートリッジからトナーを移す作業をしていた。


 色々ギリギリだね。

 まぁ、研究に使う機材や機器が優先なので、後回しになってしまうのも仕方ないけど。


「新進気鋭の企業という話でしたが、医療関連の企業ですか?」


「そう、移植用の臓器を作っている会社と義肢やインプラントを製造している会社だよ」


 依頼を受けるにあたって、相手のことはある程度調べていて、新しい企業特有の大企業からの買収を狙われている旨の記事もたくさん見た。

 だけど今では買収が難しくなるレベルまで企業が成長している状況だ。


 大きな国ではないけど法規制などが緩い為、他国より踏み込んだ研究開発が出来る。

 その強みを生かして、他国が出来ない研究開発をしているのがこの二企業だ。


 事業拡大と生産力向上に向けて、AIによる情報の集約と仕事の効率化の為の依頼となっている。


「他の企業は無いのですか?」


「一応話は来ていたけど、京楽先生の研究室に対しての依頼だったから、僕じゃなくて先輩方が対応しているよ」


 京楽先生の研究室は、複数の研究室持ちの教授や准教授、助教に助手が在籍しており、角仏大学の中でも最大の組織となっている。


 どうも先方から、料金を抑える形での交渉の結果、新人である僕が対応することになったらしい。

 まぁ、新人割引というヤツだ。


「つまり、有里さんが問題無く依頼を完了すれば、勢いのある企業が使用しているAIの作成者として名前が残るという事ですね」


「そうなるかな。ただ、相手側が満足してくれるかどうかだね」


 こればかりは僕の作成するAIの完成度と相手の求めるものとが一致しないといけない。

 企業側から欲しい機能と取り扱う計算なんかを渡されているので、それを組み込んでいくだけだ。


「有里さんの技術は、私から見ても世界のAI技術者の中でも上位に位置すると考えています。問題が起こるとすれば、相手企業の要望を満たしていない場合でしょうから気を付けましょう」


 アルマがそんな風に評価してくれるというのは嬉しいものだ。

 彼女はインターネットに繋いでからは、高い情報収集能力とそれを加味した脳力診断の様な事が出来る。


 テレビで解説役として出ているコメンテーターや専門家を、アルマが逆に解説していて面白かった。

 僕の反応が良かったからか、その次からはレーダーグラフで能力を表示してくる芸の細かさだ。


「僕をそんな風に評価してくれるのって、京楽先生かアルマぐらいだよ」


 高校時代の記憶が脳裏をよぎったけど、それを意図して無視する。


 まったく、見て見ぬふりをあと何年続ければいいのかね。

 それとも向き合う必要があるのかな。


 どっちにしろ、異性との会話はアルマと以外まともにできないだろう。

 機械的な対応しかできない。


 アルマに感謝しなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る