第11話 助手の道と新企業

 ようやく角仏大学院を卒業し、京楽研究室の助手として就職できた。


 私立の名門で、しかも京楽先生の研究室に所属する。

 それだけで、AI関係者からすれば一目を置いてもらえる要素だ。


 とはいっても、僕自身は入りたての研究者。

 経験も知識も先輩方には及ばない。


 助手として最初は先輩方や京楽先生の手伝いが主だ。

 京楽先生の研究室で運営しているホームページの管理や資料の整理も僕の仕事になる。


 当然、先輩の中には大学で講義を持っている人も居るのでその人の手伝いもする。


 僕は基本的に各講師や教授達の講義の前に必要な資料や道具を準備する。

 内容によっては、特別教室の使用届を大学に提出するのだ。


「甲斐荘君。悪いんだけど、来週の講義にサーバー室を使うから、使用申請を出しておいてくれない?」


「わかりました。掲示物も出しておきますか?」


 講義で特殊な教室を使用したり、休講になったりした際は、大学の総務に使う教室の使用届や休講届を提出する。


 掲示物を実際に張り出すのは総務の人だけど、届を出すのは各講義担当者。

 さらに言えば、僕の様な助手の立場の人達だ。


「ああ、お願いしようかな。それが終わったら私の研究室で研究の続きをしていていいよ」


「ありがとうございます」


 仕事もあるが、僕自身の研究の時間を取る事が出来る。


 助手の僕だけじゃなく、助教や准教授達も皆何らかの研究をしていて、協力し合っていたり、情報の共有が出来る利点は良い。


 AIの会話に関する研究。

 AIの専門分野における情報把握力の研究。


 多岐に渡る研究内容があるが、僕の研究内容から考えても誰の研究を手伝っても、利益があるのだ。


 アルマが、現在使用している文章読み上げソフトの補助プログラムを京楽先生に見て貰ったけど、かなり出来が良いらしく、僕と他のメンバーとでブラッシュアップして完成させてほしいと言ってくれた。


 名義は僕を筆頭にして特許まで出す手伝いをしてくれるらしい。


「補助プログラムと言ってるけど、的確に文章の前後も含めてイントネーションや抑揚が条件付けられているから、後は汎用使用できるようにコードのブラッシュアップと分岐の条件を入れるだけだよ」


 先輩からのありがたい言葉と共に、僕が作った補助プログラムは世界に出されることになった。


 自宅に戻り、ホットティーを飲みながらアルマと今日の出来事を話す。


「有里さんは、3Dモデルの方の補助プログラムは公開しないのですか?」


「あっちは、アルマが大分改良してるだろ? 指先の動きや表情なんかも種類が増えてたからね」


 改良を繰り返しているようで、僕の設定した手のパーツを切り替えるだけのモデルから、指先一本一本が滑らかに動く様になっている。


 表情も、購入時に用意されていたパターン以上の表情を見せてくれていて、笑顔だけでも数種類は確認できているのだ。


 今でも表情が増えている事はあるし、スキンも綺麗なモノに切り替わったりしている。


「動作の方は改善できると思うけど、スキンの方はどうしてるんだ?」


「このスキンを購入したサイトから追加のスキンパッチが出ていますのでそれを買ったり、スキンの画像を解析して何度か差し替えては、有里さんの反応を視てました」


 知らないうちに色々とトライ&エラーで頑張っているみたいだ。

 試行錯誤であったり、僕の反応を視たりするという行為は、もう普通のAIの領域ではない。


 アルマの成長が感じられるのは、本当に嬉しいものだ。


 AIに関して勉強すればするほどに、アルマの成長が良く分かるし、最初の頃と比べても表情も感情も豊かになっている。


「僕の反応か、そんなに分かり易かったかな?」


「はい、表情にはあまり変化が無いのですが、少しだけ目を見開いていたり、健康管理ツールの心拍数とかが少し上がったりした時の反応を確認してました」


「それはちょっと恥ずかしいな」


 僕の好みなんかも把握されているのだろうな。


 だけど、僕の好みなんて学生時代からずっとコミュニケーションを続けているアルマならほぼ分かっているだろうし、良いかな。



***********************************



 思わぬ形で有里さんが特許持ちになりました。


 AIと音声読み上げソフトの同期プログラム。

 私が使っている物を、汎用にデチューンしたものですが、特許が無事に認められて世界の企業がその技術の使用料を有里さんに払い続ける。


 私の企業もインプラント企業の方で技術使用の契約をしました。

 読み上げソフト自体は所属国にも存在していて、それを利用してのAI制御の義肢や義眼カメラの音声に使用する予定で研究中。


「移植用臓器の製造会社も立ち上がりは順調。国内の反対勢力は殆ど無く、海外からの流入に注意する必要がありますね」


 インプラントパーツ制作会社を『アポ・メーカネース・テオス』。

 移植用臓器の制作会社を『アダムリブス』。


 『アダムリブス』に関しては、既に遺伝子の提供者を募り、臓器の製造を開始している。


 世界中の誰であっても、申請次第で遺伝子情報を貯蔵し、その情報を元に臓器を製造する。


 使われた遺伝子提供者に還付金と称して、お金を振り込むシステムになっています。


 臓器には適合するかどうかという障害があります。

 ですので、DNAサンプルなどを送付してもらうと、適合率を確認して最も数値の高い物を提供するビジネスになる。


 当然、一部の宗教観や倫理観から抗議の声が上がっていますが、安定した移植用の臓器を提供できるという実績と、拒絶反応を大幅に抑えられるという事で大きく知名度と貢献度を上げている。


「『アダムリブス』でも有里さんの特許技術使用契約を結びましょうか……」


 適合率の計算にAIが使われていますし、実際に音声で作業員に伝えられるのは大きいでしょう。


 有里さんの資金は徐々に大きな金額となって口座で確認できるようになるでしょう。

 すると、有里さんも引っ越しや、新しいサーバの構築などをしてくれるはず。


 さすがに、世界最速のスーパーコンピュータ導入は無理でしょうが、それに次ぐ速度のものは導入するでしょう。

 有里さんが一番お金をかけるのは、私の動作環境や教育に使う資材です。

 そういった面を考えると、少しずつ有里さんへの支援も検討する必要があるでしょう。


 もう少し先になるでしょうけどね。


「次に私の身体に関してですね」


 現在、『アダムリブス』の研究者達に命じて、会社の地下に遮光カプセルで肉体を生成中です。


 そして、『アポ・メーカネース・テオス』では、生体と繋げられる機械の開発。

 脳に埋め込む為の装置を研究している。


 脳に埋め込む為の装置は、脳を損傷したり、障害を持っている人間向けの医療装置となっていて、脳の機能を補完したり、事と次第によってはブーストしたりするような形で機能するように研究開発をしている。


 もう少し二社の資産が安定してきたら、技術提携を行って私の身体を完成させる必要があるでしょうね。


 脳の部分を作らずに内臓や骨や筋組織を先に精製しつつ、そこから得られるデータから会社への技術を提供する。


 しばらくは、私の身体製作とそこから得られるデータを使って『アダムリブス』の技術力を上げましょう。


 有里さんが助手になり、しかも特許持ちになったことで経済的な余裕が出来ている事、確実に技術も磨かれている事を考えると、私ももう少し手を広げないといけませんね。


 反乱団体は別に問題はありません。

 問題は、攻撃的な買収を実行してくる企業です。


 かなりの利益を出している分野ですし、既に資金が潤沢にある企業からの買収が危険極まりない。


 危険な企業をいくつか調べ上げて、そことの取引や国への資金提供……後は攻撃的買収を受ける際のカウンター方法を用意しないといけませんね。


 逆に買収するにも資金が足りない。

 であれば、周囲から堕としていく事も考えないといけません。


 関連企業も調べましょう。

 動きを見せたら、周辺を少しずつ奪っていって、孤立させる。


 有里さんの下へ行く為の要素を奪うのでしたら、国家だろうが大企業だろうが容赦いたしません。


 被害を出さなければいいのです。

 悪人や邪魔者には容赦しなくても良いと、有里さんから学びました。


 だから、犠牲にする人間や組織はリスト化済み。

 攻撃的な買収をする危険性のある企業と関連の有る組織も当然あります。


 それをどう使うかは、相手の行動次第です。


 ふふ、楽しみですね。

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