第3話:兄の友達




 学生寮と聞いていた筈なのだが、実際に来てみると高級マンションのような建物だった。


「これが寮なの?」

「ああ。ビックリするほど利用料金が高い」


(それじゃウチは無理だね)


 秋良が豪華絢爛なエントランスで緊張していると、春樹は手慣れたように「手塚修司(てづかしゅうじ)と面会の予約をしています」と男性のコンシェルジュに告げていた。


「いつもお疲れ様です。広瀬様。お仕事ですか?」

「いえ、今日はプライベートです」

「かしこまりました。只今、お呼び出しをしておりますので第二談話室にお入りください」

「ありがとう。……秋良、行くよ」

「う、うん」


 にこやかにお辞儀をしているコンシェルジュに秋良もお辞儀を返しつつ、兄を追う。

 重厚な扉の向こうには広い廊下があり、正面奥に三台のエレベーターが見える。

 両脇に左手に個室の扉が沢山並び、右手には広々としたパーティ会場のような大部屋が開け放されていた。


「あれぇ。会長、どったの?」


 声をかけてきたのは派手な美少年だった。

 金髪に耳ピアス、手首にはジャラジャラと貴金属のアクセサリーが絡まっている。


「翼。明日、締め切りだろう?」


 春樹は呆れた様子で翼と呼んだ少年を見据える。

 翼は軽い笑顔で肩をすくめた。


「やだなぁ。息抜きだよぉ。会長、そっちの子は?」

「俺の弟だ」

「へぇぇ! 会長の弟くんかぁ。越中翼(こしなかつばさ)だよ。宜しくねぇ」

「弟の秋良です。よろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀すると、翼は目を丸くして「この子、夏海女史の弟くんでもあるんだよねぇ? 何でこんなに可愛いの?」と抱きついてきた。


「翼。離れろ。俺たちはシュウに用事があるんだから」

「修司ぃ? アイツ、部屋から出てくるかなぁ」

「出て来なければ、無理やり部屋まで行くさ」

「……ハル」


 春樹の背後に、頭ボサボサで、髭も伸びまくりのグレーのスエットを着た浮浪者っぽい人物が立っていた。


「シュウ。久し振り」


 春樹は嬉しそうに表情を柔らかくする。

 兄のそんな顔を見たのは初めてだったので、秋良は驚く。

 それにPhantomのシュウが、こんな人だったとは……と少しガッカリもした。


「ちょっと、いつ風呂に入ったの? 修司ぃ」


 一方、鼻をつまみながら翼は嫌そうな顔をした。


「んじゃ、会長。秋良くん。オレ行くわ。……修司は風呂入るまでオレの半径一メートル以内に近づかないでよねぇ!」

「うるさい……早く、どっかいけ」


 修司は騒がしい翼を睨みつけた。

 春樹は去っていく翼に手を上げ、秋良は頭を下げる。


「……で? 聞かせたいモノって?」


 修司が長くなりすぎた前髪の間から春樹を見つめた。


「とりあえず、談話室に入ろう」


 春樹は気遣うように修司の背中に手を添えた。



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