休日②
「待ちわびたぞ!さあ勝負だ水瀬!」
キッチン周りと食器の片づけを終え自室に戻った俺を待っていたのはコントローラーを掲げた御本だった。
部屋に置いてあるモニターには格ゲーのタイトル画面が表示されており、様々な会社のキャラクターたちが映し出されている。
ゲームセンターでは大敗した俺だがこれに関しては数少ない趣味の一つゆえやりこんでいるので、たとえ対戦相手が御本であっても負ける未来が見えない。
だが、如何せん眠い。
いつか話したが俺は寝起きは良いほうだ。しかしそれはあくまで平日限定のスタンド能力のようなものであり、今日のような休日に関しては別で、自室に戻る途中の廊下で既に二回あくびをしたため、今すぐにでも寝れるのなら寝たいところだ。
さらに追い打ちをかける予定外の朝食が俺の眠気をより一層深いところへ誘おうとしてくる。
ああ、眠い。
「どうした水瀬?」
眠気が限界の一歩手前をぐるぐると回っている。虚ろな目で御本を見ながら脳内では理性と本能が戦っていた。
それはまるでアニメや漫画でよく見る。天使と悪魔のように。
「悪い……。寝る……」
俺はどこまでも本能に忠実な男なようだ。ふらふらとした足取りでベットに横にになり目を閉じる。
風下にあるエアコンの冷気がとてもいい感じだ。
「ね……な……!……な……!」
眠気がピークに達し、完全に目を閉じる直前、御本の覗き込む顔と視界の端でガッツポーズをしている悪魔が見えた気がした。
二度寝は最高の堕落だ。
△
「起きろ水瀬!」
朝食を食べ終えた水瀬は私の言葉を無視し一直線にベットに横になり寝てしまった。
起こそうと顔を近付けて声を掛けるも返ってくるのは規則的に抜けていく寝息だけ、全く水瀬はだらしがなさ過ぎる!
せっかく二日間の休日を使って水瀬とゲームをしようとしていたのに!予定が狂ったではないか!
「……」
寝ている水瀬から視線をずらし未だにモニターに表示されているタイトル画面を見る。
コントローラーのプラスボタンを押してキャラ選択画面に行き、私がいつも使っているキャラクターを選択し、プラスボタン押す。このゲームには素晴らしいことにCPUとの対戦ができる機能がある。
水瀬が起きるまでlevel9と戦っておこう。
「……」
勝った。
「……」
勝った。
「……」
負けた。
「……つまらない」
所詮はコンピューター。人とは違い回避や崖上がりなどは多少違えどほとんど同じであり、何戦と戦っていれば考えずとも分かってしまう。
やはり戦うのなら対人がいい。人同士の深い読み合いやすれすれでの勝利など、ドキドキハラハラする展開が物足りない。
私はコントローラーを床に置きベットに視線を向ける。気の抜けるような寝顔を晒しながら幸せそうに二度寝に耽っている水瀬を見ると、不思議と眠くなってくる。
安心しきったように寝ているということは私を心から信頼しているということなのだろうか。
そうだったら嬉しいな。
「私を退屈させるのは重罪だぞ」
水瀬の頭に手を伸ばし頭を撫でる。手入れをしていない割には触り心地の良い髪質に嫉妬しそうになる。
私も手入れなんて面倒なことはしていないけれど、なんか負けている気がしてむかむかする。
「んん~……」
「!」
不意に聞こえた水瀬の声に急いで手を離す。
「寝言か……」
起こしたかと思い顔を覗き込むが目は閉じたまま。ほっと胸を撫で下ろし空になったコップを片手にリビングに向かう。
エアコンの無いリビングはむせむせ返るように暑いが、今の私にはそんなこと気にしている余裕などなかった。
「寝ててよかった……」
冷蔵庫の前に立ちバクバクとうるさくなっている心臓に手を置く。起きたかと思って焦った。
暑さとは別の理由で赤くなっている顔を誤魔化すように冷蔵庫から水滴が滴っている麦茶入りの冷水筒を取り出し、麦茶を注ぐ。
最初に入れた氷がカランと鳴った。
「……」
リビングから戻っても水瀬は一向に起きる気配はなくこのまま夕方位まで起きないのではないかと思ってしまう。
退屈の出来上がり。
「……いいこと思いついた」
さすが私。あまりの名案に自画自賛したくなる。
「失礼するぞ」
水瀬の上にかかっている毛布をずらし、起こさぬように水瀬を奥にずらす。
「水瀬きっと驚くぞ。……っ」
間近にある水瀬の顔に不意にドキリとしてしまう。いつも自分の目付きの悪さを悲観しているが、よくよく見れば整った顔立ちをしている。
ずるい。
「やはり落ち着く……」
水瀬は香水や化粧水を使ってはいないと言うが、何でこうも落ち着く匂いをしているのだろうか。
ずるい。
この際だから水瀬のずるいポイントを言っておこう。
「水瀬は何とも思っていないだろうが私も女なのだぞ……。頭にチョップをするのはやめてくれ。それにいつもはやる気が無さそうなのに、時折見せる優しさはずるいと思うのだ。それから……っ」
考えていること全てを口にするには時間が無さ過ぎる。
「今日はこのくらいにしてやるのだ。水瀬は本当にずるいな……」
水瀬の胸に顔を埋め抱き枕のように水瀬を抱きしめる。水瀬の規則的な心音と匂いで眠くなってきた。
少し早起きし過ぎたみたいだ。
「おやすみ……」
いい夢見てね。
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