御本探し

駅前の噴水公園のベンチに座りながらため息をつく。

あの後、カーレースや射撃ゲームで御本と対決した俺は三勝三敗という好成績を残し勝負に負けた。

勝負に負けた俺には明日の昼食と放課後御本に付き合うという罰ゲームを科せられた。

もちろん全部俺の奢りだ。


「俺ってセンス無いのか……」


夕方のベンチに座り、人目を憚らずイチャつくカップルの声を横目に自分の弱さを嘆く。


バスケットボールのゲームは運動能力が全てだから仕方ないと言えるが、カーレースや射撃ゲームに関しては個人のセンスが全てだ。

俺のやばさ教えてやろうか?


まずカーレースからだ。

キノコが出れば八割方崖に落ち、緑甲羅が出れば壁反射で自分に当たる。

やっとの思いで御本を抜いたと思えば赤甲羅三連、キラー、スターの応酬。

神にすら見放された男がそこにはいた。

やり返しで俺もキラーを使おうとすると直前に御本のテレサに奪われた。

あの時の御本の俺を見る顔が忘れられない。まさに悪魔だ。

対して難易度の高くないゲームすらまともに出来ない。もはや呪いと見紛うほどだ。


射撃ゲームに関してもそうだ。

今回俺達がやったのはゾンビを倒す系の良くある奴だったのだが、脳の老化なのか反射神経の衰えをひしひしと感じた。

基本前からしか来ないゾンビだったのだが、時折角待ちをしている知能の高い個体がいた。

そんなゾンビと対峙した時、視界に入れてからトリガーを引くまで数秒の時間を要する。


視界に入れる→ゾンビと認識する→どうしよう?→撃たなきゃ→発射


といった具合のやばさだ。やっている時は何とも感じないのだが、終わった後、冷静に考えて自分のやばさに気付いた。

もう、重症だよ……。


項垂れる。俺まだ若いのに……。


にしても


「遅いな」


ゲームセンターを出たあと、俺は御本に「少し休憩させてくれ」と言いゲームセンターから程近いこの公園に足を運んだ。

御本はまだ遊び足りていないのか不満げだった。

噴水公園のベンチに座り休憩をしている俺に「飲み物買ってくる!」と言い残し御本は近くの自販機に向かった。


御本が買い出しに言ってから五分以上は経っている。広い公園とは言え迷う程入り組んでいる訳でも無いし、自販機だって公園の入口に設置されていたのを確認済みだ。

仮に何を買うか迷っていたとしても五分も掛からないはずだ。

心配性が過ぎると思うが御本に対してはこれくらいが普通だ。

いやむしろこれでも少ないくらいだ。


あの御本だぞ。人にエルボードロップかましたり容赦無く水バケツを掛けるあいつだぞ?

迷惑を掛けるのが俺ならまだしもその興味が他人に移った時どうなるか、想像したくもない。


俺は心配になり、自分と御本のバッグを抱え、買いに行ったであろう公園の入口に向かった。


「あれ、居ない」


目星を付けていたところに御本は居なかった。

入れ違いになったのかと思いベンチに戻る。居なかった。

混乱で頭が埋まる。


もしかして帰った?


いやそんなはずは無い。現にバックはここにある。

財布を持って行ったが帰るにしても一言言うはずだ。

辺りを探すことにした。


何か問題が起きてその場から動けなくなったのなら、早急に見つけないと辺りが暗闇に包まれてからでは探すのが困難になる。


探し始めてから数分後。


「ん?これは」


公園の外れ雑木林の前に見覚えのある物が落ちていた。

御本の財布だ。


この辺りにいるだろうか?


周辺を隈なく探す。


雑木林から程近い街路灯の下、大柄な男二人に囲まれている人がいた。

男どもの隙間からその人物を確認すると、御本だった。


何かを言い合っているようだ。


ゆっくりと近づき聞き耳を立てると、御本は男どもを挑発したような事を言っているのが薄らと聞こえた。


「あの馬鹿……!」


男どもは横からでも見て取れるほどの青筋を立てていた。

怒ってらっしゃる。


男の一人金髪オールバックはとうとう怒りが限界点に達したのか拳を大きく上げた。

あれは不味い。

直感に頼らずともそう理解出来た。


並以上の男の拳をただの少女である御本が食らったら一溜りも無いだろう。

下手したら……。


考えたくもない。


俺はバックをその場に放り投げ走った。


頼む間に合え!

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