私の友達
「少し休憩させてくれ」
水瀬は疲れきった表情でそう言いゲームセンターを出て行った。
時間が許す限り遊び尽くす予定だった私は完全に出鼻をくじかれ不満を露わにする。
仕方なく水瀬の後ろに続くとやって来たのはゲームセンターから程近い公園だった。
公園に入り近くのベンチに水瀬は腰掛けた。まだ、一時間程しか遊んでいないにも関わらず水瀬の表情は疲れ以外を表してはいなかった。
全く水瀬は弱すぎる!
「飲み物買ってくる!」
公園に何の目的も無い私は財布を取り出し入口にあった自販機でココアでも買おうと歩き出す。
「ああ〜、分かった〜」
水瀬は何とも情けのない声を出しながら見送ってくれた。
自販機に着きココアを買う。
「水瀬のも買うか……」
優しい私は水瀬への気遣いを忘れない!
「同じのでいいか……」
合計二百二十円痛い出費と言う程でもない。
「へい彼女!今一人?」
財布を制服のポッケに入れココアを両手に抱えた状態で水瀬の元へ帰ろうとした私に声が掛かった。
声のする方を振り返ると黒髪と金髪の屈強な男が立っていた。
「何かようか?」
「暇なら俺らと遊ばない?」
黒髪の方が下心丸出しの視線と猫なで声でそんな事を言った。
「悪いが待っている人がいるのでな」
男たちの声を無視し歩き出す。
「ちょっと待てって」
男の隣を通り過ぎようとすると手首を掴まれた。
力加減が出来ていないのか少し痛い。
「今度は何だ?用なら手短に頼む」
「俺たちと遊ぼうよぉ〜」
黒髪がチャラチャラとした態度で先程と同じセリフを繰り返す。
「さっきも言ったが、待っている人がいるのでな」
強引に手を払い歩き出す。
すると今度はずっと黙っていた金髪が掴んできた。黒髪の方とは比べ意図的に強い力で握っている。
逃がさないつもりのようだ。
私は金髪を睨む。
「そう怖い顔すんなよ。可愛い顔が台無しだぜ。それに、少し俺らと遊んでくれるだけでいい」
「何度も言うが断る!」
「……なら仕方ないな」
「……っ!……っ」
言うが早いが手首を掴まれたまま力任せに引きずられる。
先程よりも強い力で握られいるため我慢の許容を超えた痛みが腕に広がる。
「離せ!私をどこに連れて行くつもりだ!」
「なあに、心配は無い。人目を気にせずゆっくりと話せる場所に行くだけだ」
そうして連れてこられたのは噴水公園の隅、街路灯の下。
「さあ、ゆっくりと話し合おうじゃねえか」
男どもは余裕の笑みを浮かべている。
「お前たちと話し合う事など一つも無い!」
「おお、威勢が良いじゃないか、それがいつまで持つか楽しみだ」
このまま話し合ってもラチが空く気配は無くむしろ悪化しているようにも見える。
いい事を思いついた。
そこから私はひたすら男どもを挑発した。
男どもが私の挑発に乗り怒りを露わにした所を逃げ出すと言う作戦だ。
ただ。この作戦には一つの懸念があった。
無事逃げ切れるだろうか。
私だから大丈夫だろう!
数分間の挑発の末男どもが青筋を立て始めた。
予想よりも早い事を考えると沸点が低い様だ。
トドメと言わんばかりに私は言葉を続ける。この時、私は男の一人が拳を上げている事に気付かなかった。
閉じていた目を開けると男の拳がすぐそこまで迫っていた。
理解した瞬間の恐怖は凄まじく。無駄だと分かっていても防御体制を取らざるを得なかった。
私は覚悟を決め再び目を閉じた。
パシンっ!!!
刹那辺りに響く音。
私は痛みが来ない事を不思議に感じ、薄目を開けた。
「水瀬!」
私と男の間に立っていのは水瀬だった。
水瀬は男の拳を頬を受け止めていた。
地面にメガネが落ちている事を考えると相当な威力だった事は明白だ。
私は思いがけない友達の登場に安堵したのかその場にへたりこんだ
小刻みながらに体が震えている所を見ると恐怖を痩せ我慢していた事を今ながらに理解した。
「悪いけど、諦めてくれないか?」
水瀬は男どもに怒気が篭った声でそう言った。
「こ、今回だけだぞ!」
男どもが素直に従った所を見ると今の水瀬は想像し難いほどに怖い顔をしているのだろう。
「御本……」
男どもが去った後、いつもの声質に戻った水瀬が私の名前を呼んだ。
「水瀬……」
「馬鹿かお前!」
感動の再会と思ったが、水瀬は私に怒った。
初めて聞く水瀬の怒声に俯く。
水瀬の説教は数十分に及び、その間私は縮こまりながら下を向いていた。
「全く、俺が来たから良いものの……。とにかく無事で良かった」
「心配してくれたのか……?」
「当たり前だろ」
「そ、そうか……」
「ほら、帰るぞ」
「うむっ……」
水瀬の手を取り立ち上がる。
「泣くなよ」
涙が止まらない。
「っ……っ……!」
「あっ……今日だけだぞ」
「うむっ……」
水瀬の胸に顔を埋める。
「怖かったのだ……」
「おう」
「痛かったのだ……」
「ああ」
「助けてくれてありがとう……」
「お互い様だ」
水瀬の手付きは優しく、暖かく、不思議と落ち着く。
「また、助けてくれるか?」
何となくそんな質問をした。
「勿論だ」
水瀬は迷いなく答えた。
「水瀬が友達で良かった!」
水瀬は私が泣き止むまで頭を無でてくれた。今思えばなんであんな方法が思いついたのか分からなかった。
無自覚の恐怖に気が動転していたのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます