お姫様は起床の時間

多少の問題を抱えながらも午前の授業が終わった。


昼休みを告げる鐘はピンと伸びていた緊張の糸を断ち切り俺に一時の休息をもたらす。


「ん〜、うっ……!」


猫背気味の背中を大きく伸ばすとボキボキという鈍い音が鳴り、それと同時に首にピキっと言う鋭い痛みが走った。


「ったあ〜」


定期的に来るこの痛みは年中無休の24時間営業のため軽い脅威とも言える。


「おい、御本……。はぁ〜」


首と腰の痛みが引いたタイミングで購買に昼食を買いに行くために御本に声を掛ける。

財布を片手に後ろを向くと机に両手を広げだらしない寝息を立てて寝ている御本が視界に入った。

さしずめ授業に飽きて寝た。ということだろう。

いつも通りだ。


「起きろ御本」


御本の肩を揺らし起こしにかかるが、帰って来るのはお淑やかさの欠片も無い寝息と少しの抵抗だけ。


「……」


御本が起きないと購買に行く事が出来ず昼食を食べ損ねる。

俺にしてみれば一食程度抜いても問題は無いのだが、今日ばかりはそうは言ってられない。

何故なら五限目が体育だからだ。


昼食を食べずに体育を受けるという事は銃撃戦の現場に刀一本で立ち向かう程に愚かである。


ぐうぅー


失礼お腹が鳴った。


「おい!起きろ御本!」


先程よりも強い力で揺らす。


「ん、ん〜?みなせ?」


御本は寝惚け眼を開け俺を見た。


「おう」


「何なのだ?」


目を擦りながら上体を起こす。


「昼休みになったから購買に行くぞ」


「ん、もうそんな時間か……」


御本は目を擦りながら立ち上がる。


「……っぶね」


寝起きのおぼつかない足取りで歩き出したため御本は前方に倒れかけた。それにいち早く気付いた俺は左手で御本を受け止める。


御本の目はまだまだ目覚めて無く虚ろだ。


「俺が買って来てやるからお前はここに居ろ」


「ありがとうなのだ。みなせ……」


御本は席に座るや否や再び眠りに着いた。


「こうして見れば可愛いのにな」


俺は御本の頭を二、三度撫で購買に向かった。



「遅かったか……」


購買に着いた俺を待っていたのは昼食に群がる烏合の衆達。

皆必死な顔で食料を求め争っている姿は見ている分には面白い物があった。


「……よし!」


深呼吸をし覚悟を決めた。


数分後


「はぁー……はぁー……。四つか」


熾烈な争いに身を投じ勝利した俺の手元には四つのパンが握られている。


もう少し早く購買に着いていたらこんな戦いに身を投じず安全に食べたいパンを買えたのだが、御本を起こす事に時間を使った俺にそんな権利が発生する訳もなく、四つのパンの中には俺の嫌いなレーズンパンが入っていた。


何も見ずに買った代償が大きい。


「まだ寝てんのか」


教室に戻り御本を起こす。


「ん?みなせ?」


「時間が無いから早く食べろよ」


御本の前にパンを二つ置き自分の席に着く。


「ん〜、ありがとうなのだ水瀬」


「おう」


「じー」


「何だよ」


パンを一つ食べ終わった時、俺を見つめる御本の視線に気付いた。


「食べないのか?」


「ん、ああ。食べていいぞ」


「!ありがとうなのだ。水瀬!」


手元に残っているレーズンパンを御本に上げる。美味しそうにレーズンパンを頬張る御本を見て、自分のお腹が鳴った。

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