友達同士のコミュケーション

「伊織の事よろしくね」


そう言って香織さんは一方的に電話を切った。


「香織さん何だって?」


「よろしく。だってさ」


「そうか!」


『お風呂が沸きました』


「先入っていいぞ」


「うむ!そうさせてもらう」


「着替えは置いとくからな」


「うむ!」


御本は風呂場に消えていった。


何があったが、簡素に言うならば香織さんに許可を貰った。

夜も遅い。日本は他の国に比べれば安全と言うが、それもある程度でしか無い。

ましてや、御本は容姿だけを見れば美少女だ。帰り道で事件や事故に巻き込まれる可能性だってある。

もしそうなったら俺は香織さんに合わせる顔が無い。

なので、御本を泊まらせる俺の判断は間違っていない筈だ。

決して邪な気持ちで泊まらせる訳では無い。


「上がったぞー」


「おう。少し大きかったな」


俺の着る服や買う服は自分の身よりも一回り大きいサイズの物が多い。

単純に余裕を持って着たいと言う思いからであり、これからの成長を期待している訳では無い。

これでも百七十後半はある。


御本が今来ている服はLLサイズの為ぶかぶかだ。

襟元は緩いし、手はすっぽりと隠れている。


「小さいサイズ持ってきてやろうか?」


あったかは分からないが提案だけはする。


「これでも良いぞ!それに水瀬の匂いがするからな」


多分それは俺の匂いではなく柔軟剤の匂いだ。

その真実を知らない御本にそんな酷な事、口が裂けても言えない。


「適当にくつろいでいてくれ」


「うむ!」


風呂場に着き、桶に湯船の湯をひとすくいする。

そう言えば、さっきまで御本が入ってたんだよな。


はっ!


ブンブン!


何言ってんだ俺は!バカか。俺らしくもない気持ちの悪い思考に吐き気がする。

御本が入っていた。だから、何だってんだ。

気持ちの悪い思考を払うため冷水を被る。


「水瀬背中を流してやろう!」


風呂場の扉が開き現れたのは自分の中でトレンド入りしている御本本人だった。


「いや……いい」


思考が止まり、カタコトな言葉が口から漏れる。


「遠慮することは無い。これも友達同士のコミュニケーションだ!」


この時俺は【男女間で友情は成立するのか?】と言う言葉を思い出していた。

誰が提唱したかは知らないけど、良かったな。友情は成立するようだよ。

何故なら御本が俺を男として認識していないから。


言うが早いが御本は俺の手からボディタオルを奪い取り強すぎる力で背中を擦る。


「痛い痛い痛い!」


あー、背中抉れるかと思った。えっ、大丈夫だよね?俺嫌だよ。排水溝に流れてく自分の肉片見るの。


「わ、悪い。今度はもう少し弱い力でやる」


「あ、ああ」


あー、いい感じ。この強すぎず弱すぎないこの感じ。 良いわー。

排水溝に流れていく赤い何かが見えたが、気の所為だろう。

気の所為だよね?


「み、水瀬……」


「何だ?」


「な、何か血が止まらない……」


御本の震える声で気付く。背中がクソ痛い。石鹸とかが染みて痛みは加速中。

声すら出ない。


「ど、どうしたら良い?」


御本はそう聞いてくるが聞きたいのはこっちだ。


「あ、そ、そうだ!救急車!救急車さえ呼べば……」


バカ!それだけはやめろ!


「大丈夫だから。御本は救急箱の準備しててくれ。リビングの引き出しに入ってるから」


「う、うむ!分かった」


ふー、危なかったぜ。これで俺の黒歴史の追加は免れたな。

救急隊員に「何で怪我したんですか」とか聞かれて、「物凄い力で背中を擦られたからです」何て言いたくない。


何とか出血を最低限に抑えた俺は上裸のままリビングに戻る。

上裸の俺を見て御本が頬を赤らめた気がしたが、そんなに滑稽に見えるのだろうか。


「水瀬横になれ。治療してやる!」


御本に言われるがまま床にうつ伏せになる。冷たい……。

そしてこの時の俺は忘れていた。今の状況があの時と全く同じと言うことに。


「少し染みるけど我慢するんだぞ!」


「ああ」


消毒液により痛みが先程よりも加速しているが致し方ない。


「テーピング貼るから動くんじゃないぞ!」


「ああ」


あ、何かデジャブ感じる。気付いた時にはもう遅い。

御本の容赦ない張り手が俺の傷口に当たる。傷の痛みと張り手の痛みが背中に広がる。

張り手に関しては背中が濡れている事により痛み二倍デーである。

人間の痛みの容量を超えた痛みに耐えられるはずも無く。

案の定叫ぶ結果になった。

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