起床は少し乱暴に
御本伊織は悩んでいた。
その原因は向かい合わせた席で眠っている男、水瀬空の事だ。
先程、言い合い合戦を制した私は意気揚々と席に着き勝負に勝ったという優越感に浸っていた。
浸り始めてからしばらくして校内に鐘の音が響いた。
五限目の終わりを告げる鐘だ。
自習の課題を提出するクラスメイトを見ながらある事に気付いた。
やってない……。
手元に置いてある課題のプリントを見ると一問も解いていないどころか名前すら書いていなかった。
もともと勉強が好きでは無いのでやる気が起こらないのは仕方のない事なのだが、白紙で提出と言うのはさすがに不味い。
しかし、こういう時に頼りに人物がいる。
水瀬だ。
メガネをかけていても滲み出る目つきの悪さから不良と思われがちだが、しっかりと勉強は出来る。
困った時は水瀬に相談だ!
助けてみなえモーン。
「水瀬ー」
一回呼んでも返事が無い。
「水瀬ー?」
二回呼んでも返事は無い。
水瀬はまるで死人のようにうんともすんとも言わない。
水瀬に近付くと微かながらに空気の漏れる音が聞こえた。
水瀬は寝ていた。
疲れていたのだろうか、屋上の時と同様に気持ち良さそうだ。
これは困った。
水瀬が起きないと課題に着手出来ない。
うんうん考えた結果。
そうだ起こそう。
結論は簡単だった。
ただ、普通に起こしてはつまらない。
一発で目覚めなおかつ面白い起こし方は無いものか?
顎に手を置き考えた結果。
「あっ!」
私は取って置きの方法を思い付いた。
思いついたが吉日。
私はすぐ様行動に移した。
昔アニメやドラマで見た起こし方、派手では無いが、一度試してみたかった方法だ。
まず初めに廊下にある掃除ロッカーの中からバケツを取り出し、ギリギリまで水を溜める。
水が一杯に入ったバケツは重く所々で軽く零して傘が減ってしまったが、許容範囲内だ。
「そっちを持っててくれないか?」
近くにいたクラスメイトに手伝ってもらい水の入ったバケツを水瀬の顔の所に持っていく。
「私が合図したら逆さにしてくれ」
何かを悟ったクラスメイト達は教室の隅に避難していた。
「3」
バケツを軽く持ち上げる
「2」
バケツを斜めに固定する。
「1」
バケツを逆さにした。
世の中には重力と言う物がある。木になったリンゴは誰が触らずとも人知れず地面に落ちる。
天才物理学者アイザックニュートンが見つけた物だ。彼はそれを 万有引力と名付けた。
バケツに入った大量の水は躊躇無く寝ている水瀬の頭に落ちる。
水は水瀬を中心に円形を作るように広がり、教室の四分の一はあっという間に水に沈んだ。
「おはよう水瀬!」
御本はドッキリが成功した子供のような無邪気な顔で水瀬に近付いた。
「……」
しかし、水瀬からの反応は無い。
「水瀬?……みーなーせー」
体を揺らしても反応は無い。
「大丈夫か?」
心配になりさらに水瀬に近付くとガッ!と頭を鷲掴みされた。
「起きているでは無いか!いい目覚めだな水瀬!」
「いい目覚めだと……?」
「な、何故そんな怖い顔をしているのだ?それに少しずつ頭を掴んでいる手の力が強くなっているのは何故なのだ?」
「人を起こすのに水を掛ける奴があるかー!!!」
「痛い痛い痛い!痛いのだ水瀬!何に怒っているか分からないが謝るからこの手を離すのだ!」
離せと言う御本とは対照的にどんどん力を込める水瀬。
心無しかミシミシと骨が軋む音が聞こえてくる。
「俺が何に怒ってるか教えてやろうか?」
水瀬は一瞬力を緩めたが
「う、うむ……是非教えて欲しいな!」
「それはなあ!お前その者にだよ!」
再び力を込めた。
「痛い痛い!変形、頭が変形してしまう!」
水瀬の怒りはしばらく治まらなかったそうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます