2021-03-01

美しさは、人間の中には無いと思っていた。


時々、人間が生きていることが無性に気持ち悪くなることがある。

各々が、何らかの感情を持ち、何らかの願望を持って居る。

そんな彼等が、死ぬことなく生きようとしていることに虫唾が走るのだ。


それだから、人間などに美しさがあってなるものかと思っていた。

美しさは、人間でなく、作品や風景などの無機的なものにのみ宿ると。

だが、思い出の中の人間にならば、もう届かない関係にならば、

美しさを見出していいと思うように成った。


それらは、総じて思い出の中に存在しなければならない。

いつかの出会いに、いつかの関係に。

今は途切れてしまったものの中には、想定外が無い。

いや、好い部分だけを抜粋することができると言うべきか。

それらは、現在実現し得ないものであることによって、

流麗な出立となりえよう。

最近の俺は、どうもそういった類のものに惹かれるのだ。

だから、誰かの瞳の奥に映る誰かは、かくも美しい。

伝えられなかった想いは、かくも儚く麗しい。


暴力的な書き方をしたいのだが、

「今」というのは実に苦しく退屈なものだ。

その苦しみから逃れる全ては、今居るこの場所以外の何処かだ。

今やっていること以外の何かだ。

自分の知り得ないことが起こっているはずの、

今とは別のものに期待せずには、今を生きられない。

同時に、それは「今」に対して一生満足できないということだ。

常に、常に、常に、どの場所においても今とは違うことを探す。

そうしないと、俺はとても生きづらい。

一番悲しいことは、「今とは違う場所」に

期待通りのものがある保証などどこにもないということだ。

したがって、これは破滅的思考である。


だからといって、やめるわけにはいかないだろう。

君は、俺に安心をくれると云うのかい?

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