第52話 ふるさと防衛作戦②
俺はキョトンとする。
「あんた達は同じところから来てるんでしょ? ということは、あんたと村の人々は、同じような顔立ちをしているってことよね」
俺ははっとする。
俺は典型的な日本人顔だった。元の世界でもそうだったように、誰が見ても日本人だと分かるし、クラスメートの顔立ちも個性はあっても、外国の人と比べればそれは小さな差でしかなく、やっぱり民族的な差の方が大きい。この世界の人間から見たら、俺と彼らが同じ人種であることは、きっとすぐにわかってしまう。
「そんなあんたが、わざわざ馬車で追いかけてきて、彼らは安全なんですー、とでも言ってみなさいよ。そんなに怪しいことはないわよね」
「確かに……」
それじゃあまるで臭いものに蓋をするようなものだ。
「いい? 要点を整理するわね。ミシアの任務は、異民の調査で、必要に応じて粛清、よ。粛清する必要がないと判断されるなら、別にミシアがその村にたどり着くことに何の問題も無いはず。ミシアは現地を直接確認してからそれを判断するのだから、その前に彼女と出くわすのは望ましくないわ。わたくし達がすることは、ミシアが到着して、判断し、粛清が決定されたその後に、それを止めに入ること。つまり重要なのは先回りであって、彼女に追いつくことではないわ」
レカの地頭の良さに感心しながらも、俺は納得した。村の事が心配で、単純思考になっていた。
今回、ミシアが村に到着することはその任務において必須条件だ。となれば、それを邪魔するのは悪手。だが彼女が即座に村に手出しする可能性も考えると、彼女が村についた時点で、俺も村にいる必要がある。でなければ手遅れになる。
しかしレカの指摘の通り、その道中で俺と出くわすのは非常にまずい。先回りすることに夢中になるあまり、ルートが被って追い付いてしまうのはアウトだ。
「そこで、提案なんだけど」
レカが人差し指と中指を揃えて立てて言う。
「二手に別れるのよ」
「――二手に?」
「そう。最重要なのは彼女よりも先に現地についていること。だけどどちらのルートを通っても、彼女と遭遇する可能性はゼロに出来ない。それより二手に分かれて、いずれかが先についていればなんとかなるわ。どう?」
なるほど、確かにその方法なら効率的だ。
「わかった、それで行こう。じゃあ、俺とアルゥで森を……」
「まって、それはダメよ。この辺りの森に詳しいのは、アルゥと、イツキ、二人なのよ。森に入ったら迷わず最速で現地に向かうためには、それぞれのチームに詳しい人がいないとダメだわ。二人は別々で行くべきよ。……それでいうと、彼女との遭遇は避けたいイツキは森コース一択。アルゥはこのまま馬車チーム。で、もうひとりはわたくしよ。……亜人の女二人が馬車を使うなんて考えられないからね。だから、ユーリィン、イツキと一緒に行ってもらえる?」
俺はレカの頭の回転の速さに、さらに驚かされた。さすが領主の娘、事態を俯瞰的にみる能力がよく鍛えられている。そういえば先日の戦闘でも、エネミーを転倒させたり、防御を発動したりと、チームが動きやすいようにしていてくれたと考えれば、意外と彼女は策略家なのかも知れない。
「よし、それで行こう。すまない、なにから何まで」
俺とユーリィンは馬車を降り、二人にしばしの別れを告げる。
「うまくやんのよ。じゃあ、また後で」
そう言って、馬車は再び街道を走り出した。
「行きましょう」
「はい」
俺とユーリィンは森に踏み込み、どんどん進んでいく。マップを確認しながら、可能な限り最短のルートを通っていく。
途中、小さな川があった。
俺はそれをひょいっと飛び越える。振り返るとユーリィンが身構えていたので、俺は手を伸ばした。
「大丈夫ですよ、さ、飛んで」
彼女は一瞬ためらったが、
「……えいっ」
勢いをつけてこちらに飛んでくる。しかしその飛距離は微妙に足らず、反対岸に足が届いたが、そのまま後ろに倒れてしまいそうになる。
「あぶない!」
俺はぐっと手を伸ばし、彼女の腕を掴み、そしてそのままぐっと引き寄せる。その反動で彼女の体は思っていたよりも引き寄せられ、抱きしめるような形になってしまった。
「あ、ごめん」
すると彼女は柔らかく笑った。
「いえ、助けてくれてありがとうございます」
目前の美人の笑顔に、ちょっと照れる。
『ユーリィンの好感度が上昇しました』
――また!?
俺は動揺した。こんなところで好感度を稼いでどうする!?
って、今はそういう場合じゃない。早く現地にたどり着かなければ。
「さ、いきましょう」
恥ずかしくなった俺はさっと振り向いて進もうとした。が、その俺のその手は握り返され、引っ張られている。
「イツキさん」
「は、はい?」
「二人きりですね……♡」
なんだか妙にその言い方が艶めかしい。
「……からかってます?」
「ふふ、少しだけ」
俺は深くため息をついた。
「今はそんな場合じゃないんだけど……」
「そうでしたね。すみません。なんだか嬉しくって」
そう言って笑顔で手を離し、あっけに呆気にとられている俺の横を通り過ぎていく。その後ろ姿が、言った。
「イツキさん」
「――はい?」
「何かあったら、わたしを頼って下さいね。レカお嬢様はイツキさんに借りがある、なんて言っていましたけど、それはわたしも同じなんですよ。苦しむ貴方を見る方がつらい。だからわたしは貴方に求められたら、それに全力で答えたいんです。……忘れないでくださいね」
そして彼女は振り向いて、優しく笑った。
「――ああ。ありがとう。その時は、お願いします」
「――はい」
そうして俺達は、森の中を進んでいった。
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