第51話 ふるさと防衛作戦
馬車はすでに出発の準備を終えていた。荷台からはアルゥがこちらに向かって手を振っている。俺は駆け寄り、その荷台に飛び乗った。
「ごめん! おまたせ!」
荷台の中には、レカとユーリィンもいた。
「遅いわよ」
「悪い、手間取った」
俺は全員が揃ったのを確認してから――というか俺が最後だったのだが――馬車主に合図し、馬車は出発した。
「みんな、予定通りアイテムは集められたか?」
そう確認すると、三人は
今回、俺は数日に渡ってサバイバルすることも想定し、それぞれアイテムの補給を頼んでいた。
「まずは私から。サバイバルに必要なものは確保できました」
最初にアルゥがアイテムウィンドウを共有した。
アルゥには自身の長年の冒険者生活で必要と感じた基礎的なアイテムを頼んだ。リスト内には、裁縫道具に修繕キット、薬草、そして予備のナイフなど、現地調達物を無駄なく扱うための物が並んでいる。これだけあれば武器が壊れても修繕できるし、毛皮を縫い合わせれば寒さをしのぐたのめの毛皮コートを作ったり、野宿場の設営もばっちりだ。
「次はわたくしよ。言われた通りに買ってきたわ」
続いてレカが共有する。レカには戦闘を継続するために、バッドステータスの解除をするためのアイテムを中心に頼んだ。この世界のバッドステータスはペナルティが大きく、加えて簡単には解除できないものが多い。今までの戦いでも随分とそれに苦しめられたので、その反省を生かした形だ。中には気付け薬や呪いを解除する巻物、そして大量のMP回復系アイテムが詰め込まれていた。これでレカは存分に力を発揮できるだろう。
「では、最後にわたしが」
ユーリィンには、食事関連を一任した。リストには、石の鍋や岩塩、その他調味料などが入っている。これで現地調達した食材を効率よくしかも美味しく食べられる。
この世界での食事はとても重要だ。空腹は精神的な苦痛だけじゃなく、戦闘は愚か命に直接影響する。満腹状態では移動速度と集中力が低下するし、空腹ではHPなどの回復力の低下や消費量の増加があり、さらに飢餓となると大幅なステータス低下に加え、低体温が発症して鈍足化も付与され身動きが取れなくなる。この状態になると自力での解決は非常に困難だ。
「よし、これだけあれば大丈夫だな」
「んで? イツキは何を買ってきたのよ。随分時間がかかったようだけれど」
「ああ、それはな」
俺はそういってみんなにアイテムリストを共有した。最初はそのリストに驚くみんなだったが、意図を理解したのか、みんなは納得したように頷いた。
「ご主人様らしいですね」
「だろ?」
これらアイテムが、必ず役にたってくれる。俺はそう確信していたのだ。
◆
「それで、進路なのだけれど」
次にレカがマップを開いた。
「今、この馬車はここ、この街道を西に向かっているわ。沿岸のアイデルハルンから内陸に進んでいく街道で、最終的には隣街のロットエールペンツェに繋がってる。村の位置を教えてくれる?」
レカが開いたマップには、周辺の地形が描かれていた。街道は比較的まっすぐに伸びており、丘陵地帯を抜け、隣町に繋がっていた。
街道上には「五月の村」――クラスメート達が過ごす村だ――は無い。俺の歩行記録によってマッピングされたデータと照らし合わせると、村の位置は街道が丘陵地帯に差し掛かった中腹を、丁度北上した山の辺りにあることがわかった。村の近くにあった湖の形状とも、位置が一致している。
「ここだ」
「――なるほど。ギルドが把握している情報より、少しずれてるのね」
俺とアルゥはこの街道へ抜けず、丘から続く森の中をアイデルハルン目掛けて真っ直ぐ突っ切るルートを選んでいたようだ。村周辺はもとより、アイデルハルンに到着するまでの間、一切の人に合わなかったことも踏まえて、そのルート上にある森は人の手の入っていない自然の状態なのだろう。
「問題はいつこの馬車を降りるかって話なのだけれど」
ミシアセイバが街を出発してから、俺たちが出発するまでには時間差がある。その差を埋めるため、レカの提案で馬車を手配したのだ。先程も言ったとおり、街道沿い村はない訳なので、村を直接目指すなら、どこかで下車し、森の中に侵入する必要がある訳だ。
「普通に考えれば、途中まではこの街道を行くのが最善よね。彼女もそれを選択しているなら、やがてこの馬車は彼女に追いつくことになるわ」
「それが一番いいのだが」
「いや、それはむしろ最悪よ」
「え、なんで?」
俺がそういうと、レカは俺の顔を指差して言った。
「その顔よ」
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