第50話 最高の仲間

 宿屋の一室。そこに、四人はいた。


「……なるほど、ね」


 今しがた、レカとユーリィンの二人に、俺がこの世界にやってきた状況を説明し終えたところだ。


「……その先の森で、私はイツキ様に救って頂いたのです。それ以来、こうして共に」


 俺の側に座るアルゥが、俺の背中をさすりながら言った。こうして腰掛けながらも落ち着かない俺を気遣ってくれている。


 レカは俺の前で腕を組み、難しそうな顔をしていたが、アルゥに向けて手を広げて言った。


「それで、ご主人様とか呼んでたんだ。最初はなんだかヤバい契約でもしてるのかと思ったけど。どうやらそういう感じじゃないし、とは思っていたのよね。これで一つ謎が解けたわ」


 そういってレカは大げさに振る舞って見せた。雰囲気を良くしようとしてくれたのだろうか。


「お嬢様、今はそのことに触れている場合では……」

「何よ、ユーリィンは何も思わなかったの?」

「いえ別に……わたしも似たようなものですし……」


 しかしその雰囲気は質素な地面に吸われて行く。再び重苦しい雰囲気が訪れたのだが、レカはそれを見かねて、俺の目の前にしゃがみこんで、俺の顔を覗き込んだ。


「ひとつ、確認しておきたいんだけど」


 レカはそう言って指を一本たてた。


「そいつらは、イツキを見捨てたんでしょう? だったら、そいつらがどうなろうが、貴方には関係がないんじゃないの?」


「……そう、……なんだけど……」


 確かに、俺はあいつらに追い出された。その責任が俺にはないとは言い切れない。だが、その仕打ちが残酷であることは事実だ。実際俺は深く傷つき、もう死んでもいい、そんな事すら考えていたのだから。


 だが、じゃああいつらどうなってもいい――なんて気持ちには、どうしてだか、なれないのだ。


「でも、万が一、何かあったら。そう思うと……。知ってるやつが危険な目にあうかもとわかってて放っておくのは、なんだか……違う気がするんだ」


 俺には彼らと過ごした思い出がある。別れは最悪の形だったが、だからといって、それらが全部なくなってしまうわけじゃない。俺は確かにあの場所で、彼らと共に生きていたんだから。


 だけど、俺が出向いたところで、やれることなんてあるのだろうか。彼らは仲間と思ってくれるだろうか。


 それに、そんな個人的なことで、三人を危険な目には合わせられない。相手は最強の傭兵。――もし戦闘になったら、無事では済まないかも知れない。



「そ」


 レカはそういうと、すっと立ち上がり、扉に手をかけた。



「ほら、ぼさっとしてないで、はやく行くわよ」



 俺は驚きのあまり、顔をあげた。


「助けに行くんでしょ? 早くしないと間に合わないわよ」


 レカはさも当然かのように、そう言った。そして側で、ユーリィンが優しく笑っていた。


「『あんたが親友を切り捨てないのなら、助けを求めているなら、俺はあんたを切り捨てない』。――あんたの言葉よ」 


 俺がレカのクエストを受けた時の――


「イツキが助けてくれたから、今のわたくしとユーリィンがあるの。感謝してもしきれないくらい。だから今度はわたくしの番。――あんたが親友を切り捨てないのなら、助けを求めているなら、わたくしはあんたを切り捨てない」



 その言葉は、俺の魂に響いた。

 何かがこみ上げてくる。

 

 体が勝手に震えた。

 気がつけば、涙が溢れていた。



「行きましょう、ご主人様」


 そんな俺を立たせてくれたアルゥも、慈愛に満ちた表情で見つめてくれいる。


「ありがとう、みんな――」


 出会って数日。

 まだまだ付き合いが浅い俺達。


 だけれど、みんなは俺のことを信じてくれていた。

 

 俺は、いい仲間を持った。本当に。


「少しくらいは恩を返させなさいよ。じゃないと、本当に一生かかりそうなんだから」


 そういうレカは、眩しいくらいの笑顔だった。




 こうして俺たちは出発することとなった。


 だけど、まさかあんなことになるなんて――。

 その時は思いもしなかったんだ。

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