第47話 突きつけられた現実
その日の夜のことだ。
「ばふっ」
宿に戻った俺は、自身で効果音を口にしながら、ベッドに倒れ込んだ。薄く質素で快適とは程遠いベッドだが、それでも今の俺には有り難いぬくもりだった。
すばり、俺は落ち込んでいた。
原因は、本日のクエスト遠征にある。
◆
結論から言えば、四人によるクエスト遂行は、順調そのものだった。
まず初めに、付近の農作物に影響を与えるエネミーの討伐クエストを受託。これはそもそも俺とアルゥの二人で十分にクリアできるものだったため、レカとユーリィンを迎えた今、当然といえば当然なのだが、なんの問題もなくクリアした。
続いて、エルダーマンモスイノシシの討伐を受託した。
この討伐クエストには雑魚エネミーであるマンモスイノシシに加え、その親玉であるボスエネミー・エルダーマンモスイノシシが含まれているため、通常のクエストよりも難易度が高かった。推薦キャラクターランクも4以上となっており、やや背伸びをした格好だったのだが、これも無事にクリアできた。
感心したのが、各々の持つスキルのシナジー効果だった。
「風よ!」
最初に、レカが風魔法を使う。地面から突き上げるような風により、ほとんどのイノシシは転倒、腹を天に向けたやつらは、体勢を整えるのに数秒を要した。
「――はっ!」
その腹に、アルゥの小刀が突き刺さっていく。急所に命中するアルゥのクリティカル攻撃のダメージは流石の一言で、俺なら十数回は斬りかかるところを、一突きで絶命までに持っていくのだ。
そして極めつけは、ユーリィンのこのスキルだ。
「精霊よ……亡き者の魂を我の糧とすることを許し給え。――ホーリー・エナジードレイン・フィールド」
倒されたマンモスイノシシは、消失するとともに光のオーブになり、それはユーリィンの足元に展開された魔法陣に次々と吸収されていく。――そしてその度に、魔法陣上にいるレカとユーリィンのMPが回復していくのである。
「ははっ! まだまだっ!」
ホーリー・エナジードレイン――エネミー撃破をMP回復に置換する精霊魔法。これによりレカは実質無限のMPを躊躇なく風魔法に回すことができていたのだ。
そのシナジー効果は凄まじく、マンモスエネミーは次々に撃破され、あっという間にエルダーマンモスイノシシを残すのみとなった。
怒り狂ったマンモスエネミーは体全体を真っ赤にしながら突進してくる。その体高は成人男性よりも一回り大きく、その巨体に突っ込まれたら重症は免れないだろう。
ここでようやく俺の出番だ。これを回避しながらカウンターの一撃を加える!
――と思ったのだが。
「疾風!」
ここでもレカの風が威力を発揮した。突き上げる風により足元をすくわれたエルダーマンモスイノシシは、つんのめる形で転倒、顔面で地面を削りながら滑り、停止。
そしてその眼に、弓矢が――ユーリィンが放ったものだ――が突き刺さった。
「今です!」
ユーリィンの掛け声に、俺は慌てて剣を構え、斬りかかった。
「ぐっ!? なんて分厚いんだ、こいつの毛皮は!」
しかし俺の持つ安物の剣では、その腹に大きなダメージを与えられなかった。そうこうしているうちに、エルダーマンモスイノシシは再び体を起こそうとしている。
「ご主人様」
「
そしてアルゥの刺突が決まった瞬間、イノシシの体から巨大な氷の華が咲き、それが崩れ散る頃、イノシシの体もまた、粉雪のように消えていった。
◆
――こうして、少し難易度の高いクエストも、無事にクリアとなった。
だが、これには見過ごせない問題があったのも、事実だった。
「俺、なんにもしてなくね?」
これが、俺の落ち込んでいた理由だ。
そもそも今回の俺の目的は、レカ、ユーリィンの実力と、四人でのパーティバランスを把握することだった。安定したクエストクリアがこのメンバーで行えるのかが、またはその方法を探りたかったのだ。
この先、何をするにも金が必要になる。レカ、ユーリィンの二名が加入したことで、食費も宿代も倍以上かかるし、俺とアルゥなら気軽に選択できた野宿というプランも今後はあり得ないだろう。ユーリィンはともかくとして、レカはお嬢様なのだ。いくら風の精霊の力を手に入れたりメンタルタフだからと言っても、いきなりのサバイバル経験はあまりにも酷というものだ。経費の増大は容易に予測できる。金がなくなればやがて食えなくなってしまう。
ではそんなレカを置いていくのか、と言われれば、その選択肢はあり得ない。そもそも彼女が勘当されるに至った経緯には、俺がユーリィン救出の手助けをした――それがレカの望みだったわけだが――ところが大きい、というかほとんど全部だ。その上俺は彼女を攻略済みで、加えて求婚までされている始末である。これで置いていくという選択ができるやつは鬼畜だと思う。
もちろん、レカとユーリィンを引き離すという手段は最初から選択肢にない。――必然的に、四人で行動することになる。
となれば、果たして本当にそれが可能なのか、この先四人でうまくやっていけるのか――。それを確かめないことには、この先のことを何も決められない、俺はそう思ったのだ。
しかし、現実は想像とは異なってた。
「一番使えないのは、俺じゃないか」
俺は、無力だった。
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