第39話 クエストクリア
「やったぁああ!」
子供のような歓喜を上げながら、レカが俺に飛びついてくる。その衝撃で後ろに倒れこむ俺たち。馬乗りになった彼女にまとう風は、いつの間にか炎を失い虹色に戻っており、レカの翼に吸い込まれていくように収束し、そして今度は、翼がレカの体内に吸収されていくように、その末端から消失していく。
「あんたが無事でよかった。本当に良かった」
レカはそう言いながら、目じりに溜まった涙を指でぬぐった。
「あやうく、一緒に燃やされそうだったけどな」
「む。生意気! 多少は焙られてミディアムレアくらいになった方がよかったんじゃないの?」
「微妙に意味がわかりません」
そして俺の右腕には、アルゥがしがみついていた。
「レカ!!! ご主人から離れてください!!! 男性を押し倒すなんてレディとしてはしたないですよ、このアバズレ女」
俺は少し驚く。アルゥの口が悪いところを初めてきいた気がする。それにしても命の恩人に対して少し強く当たりすぎではないだろうか?
「あら、ごめん遊ばせ。アルゥに女の品格がわかるとは思わなかったわぁ」
「……いずれこの小刀の錆にしてくれる」
「やってみればぁ? わたくしを捉えられれば、だけど」
そういって二人は俺の目の前でいがみ合っている。――二人にいったい何があったんだ?
「レカお嬢様」
その声に振り返れば、そこにはユーリィンがしっかりとした姿勢で立っていた。死神の討伐で呪いが解呪されたのか、顔色もすっかり良くなっている。
「ユーリィン」
そういって、二人は熱い抱擁を交わす。
「……わたくしを一人にしないって、約束したじゃない」
「申し訳、ありませんでした」
「許さない。許さないわよ……許さないんだからぁ……」
「――はい、お嬢様」
子供のように泣くレカを、頭をなでて抱きしめるユーリィン。
二人は姉妹のようだと、誰かが言った。
◇
洞窟を出れば、夜が明けようとしていた。
「これからどうするんだ」
遠景には色を取り戻しつつある水平線が見える。そして、アイデルハルン領主の屋敷もそこにはあった。
「そう、ね」
そこへと続く道はどこまでも真っすぐ伸びている。しかし、誰もが進める道ではない。――今のレカと、ユーリィンにとっては。
「自分たちのことは、自分たちでなんとかするわ。きっと、大丈夫よ」
わずかに朝日が差し込む彼女の瞳には、強い意志が宿っている。
「――そうか」
ならば、俺がいうことは、何もない。きっと、大丈夫なのだろう。
「じゃあ」
レカがユーリィンの手を取り、そしてもう片方の手で、さよならを言っている。俺が返事をするより先に、レカは歩き出した。さっきは妹のようだったレカが、今度はユーリィンの手を強くひいて。その道を歩き出すことにためらう彼女を、姉が導くように。
「――元気で」
俺はその背中に、小さく言った。きっとその声は届いていたと思う。
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