第35話 死神との死闘⑤

 目前に立つ彼女に、みるみると生気が戻ってくるのが分かる。

 やせ細った体も少しだけしっかりしてきたように見える。いままでか細く薄かった彼女の輪郭が――彼女を包む青白い発光がその輪郭をかたどっているのもあって――よりくっきりとした感じなのだ。そしてその青白い光は、彼女の皮膚に吸収されていくように、ゆっくりと消失していった。


「ユーリィンさん……?」


 彼女の力強くも妖艶ようえんな瞳。翡翠ひすい色の瞳が、ようやく俺を見つめた。


「イツキさん、ごちそうさまでした♡」


 そういって唇に指を触れる彼女。


 ――なんだろう、俺と同じ歳かそれより若くみえるのに、なんだか妙に大人びて見える!


 そして、俺は再び彼女のステータスを見て、更に驚くことになる。


 ――MPが全回復している!?


 つい先程まですっからかんだった彼女のMPが、完全回復しているのだ。その総量は――俺の十倍!?


「ユーリィンさん、今のは……」


 俺がそう訪ねた時、彼女はすでに広場の方――アルゥやレカが戦闘している場所だ――を見つめていた。そしてゆっくりと片腕を伸ばし、そして指先をも伸ばすと、その指先に真っ白な光が収束し始めた。それはここら一帯をまるで太陽の下かのようにするほどの明るさだった。


 ――これはまさか――魔法?


 そしてその光が完全に収束し、再び暗闇に戻った瞬間だった。



「ホーリー・レイ」



 彼女の指先から、強烈な閃光が一直線に放たれた。それは暗闇を切り裂き、まっすぐと死神に向かい、そして命中した。


『キャアァァアアアアアアア!!!!!』


 死神の悲鳴がとどろく。


「さぁ、いきましょう」


 あっけにとられている俺に、今度はユーリィンが手を差し伸べる。俺はそれを取り――さっきよりも幾分力強くなった彼女の手に安心感を覚えた――彼女の後に続く。


「ユーリィンさん、今のは!?」


 さっきの魔法。俺の見たことの無い魔法だ。少なくとも、俺のスキルリストには存在しない。


「――ホーリー・レイ。わたし達、半妖精族に伝わる聖属性魔法の一種です」


 ――聖属性だと!? そんな属性が存在していたのか!?


 火・水・氷・雷の四属性。俺を含めたクラスメートの誰しもが、この四種類の属性魔法の習得が可能だった。いや、逆にそれ以外の属性は習得できなかった。だから俺はこの世界にはそれ以外の魔法が存在するとは、思っていなかった。


「それで、その魔法の効果はなんなんだ!?」

「それは――」


 そうして俺達は広場につく。そこには、アルゥとレカと――そして部屋の中央でもがき苦しむ死神の姿があった。


「この世ならざる存在を暴き、この世界の理に定着させる――。彼ら霊体に、生身のかせを与えることです」


 そういって彼女は足元にある石ころを拾い上げ、死神に向かって放り投げた。本来ならその体をすり抜けるはずのその石は、死神の輪郭に命中し、跳ね返って落下した。


「要するに、少しの間、物理攻撃が効くようになる、ということです」


 その言葉を聞いた俺とアルゥは顔を見合わせた。


「よし! いけるぞ!」

「はい! ご主人様!」


 俺は素早く距離を詰め、大剣を構えた。


「ライトニングスラッシュ!」


 そして放った横薙よこなぎの一撃は、確かに何かを斬った感触がある。見れば、死神の外套がいとうは切り裂かれ、その向こう側の空間から、赤い血液のようなものが吹き出している。


「効いてる!」


 ――生身の枷をあたえるとはこういうことか!


雪華氷刃せっかひょうじん!」


 続いて、上空から飛び込むようにして。アルゥが突き刺さる。その小刀は確かに死神の、そしてそこから巨大な雪の結晶花が開き、砕け散った後に、赤い血の雨を降らせた。

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