第33話 死神との死闘③

 その瞬間、俺の体に光が収束する。


『――好感度マックス。対象を攻略しました。報酬を受け取りますか? ……攻略報酬を自動で取得しました――ランクアップ条件を達成しました』


 白銀に光る空間の中、光の粒が渦を巻くように俺の体を包んでいく。


 ステータスの数値はぐんぐん上昇していく。バッドステータスが解除され、HPやMPがどんどん回復していく。


 そして光の渦が消え去った時、俺のキャラクターランクは、3を示していた。


「ご主人様!」


 俺の脇腹目掛けてアルゥが飛び込んでくる。俺はその衝撃で尻もちをついた。


「ご無事で! ご無事で……。ご無事でぇ……。もうあんな無茶はおやめ下さい。私を、一人にしないでください」

「……ごめん」

「許しませんっ」


 爪が背中にめり込むほどの抱擁。温かい涙が、俺の胸に伝わってくる。その震える体を、俺は優しく抱きしめた。


「ちょっと、そういうのは後にしてくれる? ――死にたくなければね」


 そんな俺達を、ものすごく不満そうににらんでくるレカ。その背後には、不穏に揺れる死神の姿がある。そう、俺たちはまだ奴を倒せていないのだ。


「そう、だったな!」


 俺はすぐさま戦闘体勢を整える。

 しかしそんな俺に、レカは手をかざして静止した。


「あんたは、ユーリィンのところに行って」

「な――だが!」

「あんたと話したい――そう、あの子が言ってるのよ」


 ユーリィンが?


「あの子は大事な時に私情で動く子じゃないわ。きっと、大切な話よ。あの子の願いなら、わたくしはそれを叶えたいの。お願い」


 いつになく真剣なレカの瞳に、俺が映っている。


「……大丈夫か」

「心配してくれてるの?」

「当たり前だ」


 俺がそう言うと、レカは悪そうに、幼い女の子のように笑った。


「ありがと。――だったら、すぐ行ってきて。そして、戻ってきて」


 そこには、確かに彼女の覚悟があった。


 彼女のキャラクターランクは1。あのボスの攻撃の一発でも貰えば、その生命は消し飛んでしまうだろう。そんなことは承知の上で、彼女は言っているのだ。


 ――だったら。


「――わかった」


 俺にそれを断る理由はない。


「アルゥ! 俺が戻るまで、レカを守れ!」

「はい!」


 俺はその背中にアルゥの返事を受け止め、弾けるように奥の独房目指して駆け出した。





「……戦場で泣くような小娘に守ってもらわなくてもいいんだけど?」


 横に並んだアルゥに、レカは言った。


「……そういうのは、ご自身の実力をしっかりと理解してから言ってほしいですね」


 アルゥも負けじと言い返している。


「あら、これでも逃げ足には自信があるのよ? わたくしを捕まえられた人は、一人もいないんだから。お転婆てんば伊達だてじゃないのよ。むしろ足手まといってやつよ」


「そうですか。でも残念ですね、ご主人様の命令は絶対なので。あと、自分でお転婆とか言っちゃうのはどうかと。イタイですよ」


「はぁ? ご主人様ぁー、とか言っちゃってるあんたの方が、よっぽどだと思うけど」


 二人は目線を合わせない。

 並んで相対するのは、死神。

 しばしの沈黙ののち、二人は構えた。


「――レカ・スメンド・ティアールカ。――レカでいいわ」

「――アルゥエラ。――アルゥと」


 そして二人の少女は、死神に向かって飛び込んでいった。

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