第28話 二人の少女と魔法の出会い

「ご主人様! お怪我はございませんか!?」


 アルゥが駆け寄り、俺の胸に飛び込んで来る。


「大丈夫だよ、アルゥ。この通り無傷だ」

「申し訳ございません。敵の攻撃を許してしまいました。……ご主人様にもしものことがあったら……」


 アルゥはわかりやすく狼狽ろうばいし、今にも泣き出しそうだった。俺はそのふさふさの頭をで回した。


「ごめん、心配させて」

「……あのうぅ。わたくしがいるの、忘れていらっしゃらない?」


 その様子を腰に手を当て、あきれ顔で見ているレカ。


「レカさん。この度は私のご主人様を守って頂き、ありがとうございました」


 そういってアルゥはペコリと頭を下げた。

「私のって……。別にあんたのためじゃないわよ。死なれたら、わたくしが困りますので。なにせ、わたくしのクエストを受けた、わたくしの! 同行者なんですから」


 二人は、笑顔で向かい合っているが、放たれるオーラは喧嘩そのものだった。





 洞窟への入り口は、明らかに人工的に作られたものだった。


「ここが入り口か」

「ええ」


 床と壁面が平らにならされている。複数人の炭鉱夫が作業にあたったのが分かる。ちょうど背にした月明かりが入り込み、数歩先までを照らしている。そこで床が途切れたように見えるのは、あの男の話通り、そこから下が掘り下げられているからだろう。――そしてそこに一人で落ちてしまったら、戻ってこられない。


「……飛び降りるしかない、か」


 急いで出てきたのが仇となったか、と思ったが、そもそも縄をかけられそうなところも見当たらない。徹底した対策だ。高さもそこそこあり、着地によっては捻挫――この世界では捻挫がないから、着地ダメージを受ける――してしまいそうだ。


「じゃあ、わたくしが」


 そうこうしている内に、レカがスカートの裾を持って、俺の側まで来ていた。そしてまさに飛び降りようとしている!


「え、ちょっ――」

「とっ」


 危ない――!


 と思ったが、レカの体は急降下することなく、ふわっとゆっくりと降下していく。

 レカの背中には翼のようなエフェクトと、足首には渦巻のようなエフェクトが表示されている。風が彼女をサポートしているのだろう。


「早く降りてきなさいよー!」


 奥の入口まで降りたレカは振り返り、こちらに手を振っている。

「……便利なもんだな」


 あの風の翼さえあれば、渓谷けいこくや川を横断できそうだ。


 ――しかし、俺のスキル欄には、あんなスキルは無かったぞ。彼女がランク1だと言うなら、俺も習得できそうなものだが――


「私達も、参りましょうか」

「そう、だな」

「お気をつけて」


 アルゥはそう言って身軽に飛び降り、音もなく着地した。


 一方俺は――

「とう――っいだ!」


 派手な音を立てた上、落下ダメージを受けた。アルゥに優しく介助されながらも、内心は恥ずかしくて死にそうだった。





 洞窟は天然と人工のあいの子という感じで、天然石を含んだ岩肌自身がぼんやり発光しており視線は通るが、通路は複雑に入り組んでいる。しかし、先頭を行くレカは迷うことなく足を進めている。


「道が分かるのか」

「なんとなくよ」

「……ものすごく不安だな」

「露骨に不安になるの、辞めてくれるかしら」


 そういうとレカはこちらに振り返り、手のひらをかざした。すると、手のひらの上に小さな風の渦が発生し、それが洞窟の奥へと消えていった。


「風が教えてくれるのよ。この風は、ユーリィンの匂いを覚えているから。この先に、彼女がいるんだって」


 そして再び歩き始める。俺とアルゥは顔を見合わせ、それについていく。しばらくして、レカが語り始めた。


「……さっきの話なんだけどね。ユーリィンがティアールカ家に来たのは、わたくしが四つになった時だった。両親と年の離れた姉上は、わたくしが物心ついた時から仕事で忙しくて。わたくしを一人にさせないようにと、父が」


 途中、人骨があった。かなり前に亡くなったのだろう。それに眉を潜めたレカだったが、それでも足取りは進んでいた。


「同い年だったわたくし達はすぐに仲良くなったわ。初めてできた友達に、わたくしは嬉しかったの。たくさん遊んだわ。そして、身の回りの世話もしてもらった。そんな時、わたしは見てしまったのよ。――彼女が魔法を使っているのを」

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