第27話 旋風のレカ
「アルゥ!」
「はい!」
俺の号令に合わせ、
「――
アルゥに突かれたエネミー――パニックフラワー――に氷の結晶が花開き、そして次の瞬間には粉雪のように崩れ去った。
「ありがとう、アルゥ。助かったよ」
「お安い御用です、ご主人様」
「しかし、いつ見ても美しいな」
「そんな、美しいだなんて……」
アルゥはそう言ってもじもじしている。技を褒めたつもりだった、とは言わないでおくことにする。
洞窟に近づくにつれ、初めて遭遇するエネミーが多く登場した。パニックフラワーは大きな
「はぇー。アルゥちゃん、強かったんだねー」
その後ろで、膝をおって座ったレカが関心している。
「……あんた、本当に戦闘の役に立たないな」
「なによー。足を引っ張るなって言ったのはそっちでしょ? ここまでノーダメージで来てることをむしろ褒めて欲しいんだけど」
レカはそう言って両手を広げて弁明している。
確かにこのレカは、先程から幾度かの戦闘に巻き込まれながらも、奇跡的に被弾していなかった。逃げ足が早いというのは本当なのだろう。実際俺たちも、彼女のことを守る、という意識なく戦えているのはありがたかった。
「まぁ、無事なら良い」
「あら、心配してくれているのかしら」
「……さぁ、いくぞ」
「むー、張り合いない男ねー」
洞窟までの直線距離はそう遠くない。が、傾斜がそこそこある上、エネミーの数も多い。確かに、ここまで一人で来るというのは、自殺行為といえるだろう。
「あともう少しだ」
崖とも言える山道を登り終えると、比較的舗装された道に出る。それは山の起伏に沿うように整備されており、片方が洞窟へ、そして反対側は延々と続き、その先には立派な屋敷が見えた。
「あそこが、わたくしのお屋敷よ」
「……なるほど」
屋敷はかなり大きい。沿岸に面しており、そこからやはり沿岸の街道続きでアイデルハルンまでつながっている。
そしてその屋敷から、この洞窟までの山道もまた、一本道で整備されている。見下ろす感じでは、この山道上にエネミーはいない。この道を通って、牢獄として使っていた洞窟まで罪人を運んでいたのだろう。これは、ティアールカ家がこの洞窟と深い関わりがあったことの証左だった。
「なぁ、レカ」
俺はその屋敷を眺めながら、上がってくる夜風を感じていた。
「何?」
「あんたの家では、今も罪人を取り締まったりしているのか?」
俺の質問に、レカは顔を暗くして答える。
「そんなこと無いわよ。少なくとも私が知る限りでは、昔の話よ。今じゃ、ギルドが冒険者を使って罪人を締め上げているし、そもそもそれが怖くて、あの街で悪さをする人は少ないわ。一言盗人よー! なんて叫べば、そこらへんにいる冒険者にあっという間に捕まって、よくて半殺しね。同じ過ちを犯そうとは、しないでしょうね」
交易都市とギルドの関係。冒険者が多く滞在し、冒険者が治安維持の機能をそれぞれが有している。なかなか良い仕組みになっていると思う。
ということは。
「じゃあ、あんたの親父さんが親友をここに連れてきたのは、慣例じゃない。特別な事情があった、ってことだよな」
俺の言葉に、レカの表情がわかりやすく曇った。遮るもののない山道で月夜に照らされた彼女の顔は、悲しそうであっても美しい。
「俺は、使用人があんたに怪我をさせたって聞いてる。だけど、そうは見えない。本当は何があったんだ?」
「そうね……」
レカはそういって、深呼吸した。
その時――
「ご主人様!」
アルゥが叫んだ。
振り向けば、崖下にパニックフラワーがこちらに花弁を向けていた。それは今にもこちらに放たれそうになっていて――
――まずい間に合わない!
そう思った、その瞬間だった。
「旋風!」
強烈な風が俺とレカを包み込んだ。それは突き上げるようにして上昇していく!
「――これはっ!」
「しっ! 動かないで!」
いつのまにか側にいたレカが、俺の腕を掴む。そして放たれたパニックフラワーの種子マシンガンが俺達に命中――したかに思えたが、それらは風の障壁によって吹き飛ばされ、俺たちに届かない。
そして風の障壁が消えた頃、最初に目に入ってきたのは、雪華氷刃によってパニックフラワーに氷の花を咲かせているアルゥの姿だった。
――風の障壁が、俺達を守った――
状況から見れば、発動者は明らかに――
「レカ――」
俺が
「……さっきの話だけど、これも関係あるのよ」
レカは立ち上がると、俺に手を差し出す。しゃがみこんでいた俺を立ち上がらせると、言った。
「さ、行きましょう。話は、歩きながらでもできるから」
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