第21話 初めてのクエストと報酬
「エンチャントフレイム!」
詠唱と共に、右手が炎のエフェクトに包まれる。それを自身のロングソードに向けると、刀身が赤く発光し、炎を放ち始める。そして剣を深く水平に構えて、俺はスキル名を叫んだ。
「ライトニングスラッシュ!」
――パチパチパチ。
「お見事です」
その様子を見ていたアルゥが、石の上に腰掛けながら、こちらに拍手していた。
俺たちは、受付嬢から受託した「凶暴化したマンモスイノシシの討伐クエスト」に挑戦していた。場所はアイデルハルンの
「しかし、器用でいらっしゃいますね」
彼女は感心したように、俺のロングソードを指差した。
「武器に炎属性を付与する魔法を使った上で、自身の武器スキルで斬りかかる――。魔法と剣技を同時に扱う人は、そうそういらっしゃらないのでは」
俺はそれに苦笑いで返す。
「ランクが上がらなかったからね。それこそ、手当たり次第にスキルを使って、スキルレベル上げをしていたから、これはその副産物かな。お陰で、これっていう特技も無いのだけれど」
RPGの基本は、戦闘スタイルの特化だ。物理攻撃クラスなら武器の扱いに特化、魔法クラスなら魔法に特化、サポート特化など、通常は「ジョブ」とか「クラス」とかいう名称でカテゴライズされたスタイルを取るのが普通だ。
この世界でのスキルは使用回数によって成長が決まっているから、使えば使うほど、その特技が伸びやすくなる。普通なら、こうしてスキルレベルをあげていけば、そのうちランクアップする、というわけだ。ランクアップすれば、ステータスがあがり、スキルレベルの上限が開放され、さらにそのスキルを極めることができる。それは戦闘スタイルを確立することだろう。
しかし俺の場合は、どれだけスキルレベルを上げても、ランクが上がらない。頭打ちになったスキルはそれ以上使い続けても成長することはない。それはもったいないということで、他のスキルに手を出す。――そうして、多くのスキルを伸ばしていたので、お陰で
「まぁ、それが強さに直結する訳じゃないから」
手段が増えれば、それだけ相手に有利に立ち回れる。――が、各スキルの威力そのものは、同ランクのキャラクターと
「とはいえ、課題が残るなぁ」
しかし、ランクアップの方法は依然として不明だった。
思い当たる節があるのだとすれば――
「――好感度、か」
アルゥと出会った日。俺が初めてランクアップをした時、脳内に響いてきたのはあのメッセージ。
「どうかしましたか?」
いつの間にか考え込んでしまっていたらしい。側にきたアルゥが、優しい瞳で見つめていた。
「強くならないとな、って」
俺がそういうと、アルゥは俺の背中にそっと手を置いた。
「あまり思い詰めないで下さい。ご主人様はもう十分にお強いのですから」
「……ランク2の中では、って感じだけどね」
「自分を見失ってはいけません。それに、強敵との戦闘は、私がいるではありませんか」
アルゥのランクは5。ここらへんにいるエネミーなら瞬殺できる強さだ。俊敏さを生かした小刀捌きで、スキを見せた相手の懐に一瞬で入り込み、切り倒していく。まるで、白銀の風が戦場を吹き抜けていくようだ。
「頼りにしているよ、アルゥ」
俺はそういって、そのフサフサの頭を撫で回す。こうすると、彼女の尻尾はふさふさと揺れる。
しかし、いくらランクが上だからと言って、自分よりも小柄な女の子に戦闘を任せるというのは、気持ちが落ちつかなかった。俺の刃にも盾にもなるというのは彼女の言葉だが、本当ならばそれは俺がなるべきなのではないかという自問があった。しばらくは、器用貧乏と成り果てた自分と向かい合うしか無いだろう。
◆
クエストを達成し、街に戻って来た俺達は、ギルドに直行した。
「クエスト達成、おめでとうございます」
受付嬢が報酬として、ゼール――この世界の通貨だ――をくれる。初日にアイテム買取で得られた収益の、三倍近い。これだけあれば、今晩は宿に泊まれるだろう。
ギルドを出た頃には、日はしっかり傾いでいた。俺たちは手頃な宿をとり、夕食を探しに街に繰り出した。
街道は人が作り出す灯りで満ちている。夏祭りの出店みたいだな、と、前の世界を思い出す。
「ご主人様」
アルゥに袖を引っ張られ、振り向くと、彼女がお店を指し示していた。
「初クエスト達成のお祝いとして、少し
あまりにも彼女が可愛い笑顔で提案するので、俺はそれを快く受け付けることにした。
そして店内に入ると、異変に気づいた。――異様に静かなのだ。
その理由は、すぐに分かった。
真紅のフレアスカート。
レカが、店の中央で、拳を握りしめていた。
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