第18話 狼少女の身の上話と、再会
彼女が落ち着きを取り戻した後、俺たちは二人してしゃがみ、肩を寄せ合って水平線を見ていた。月明かりに照らされた水面は、どこまでも穏やかだった。遠くかすかに聞こえる波の音が、心を落ち着かせてくれた。
「――私は冒険者でした」
そしてアルゥは、語り始めた。
「その日、私は二つの失敗をしました。一つは、エネミーとの戦闘に破れ、手負いとなってしまったこと。幸いなことに、からがら逃げ
奴隷がいるということは、奴隷を取り扱う人間がいるということだ。そして、それを
「なんとか男から逃げ出したものの、追撃を受け――。必死に走ったその先で、出会ったのが貴方様でした」
それで合点がいった。彼女の手首や足首に、締め付けられたような跡があった理由。そして、飯を与えた時の、怯えた表情。
――また騙されるのではないか。そう思ったのだろう。
「……大変だったな」
「ええ、大変でした」
俺は自己嫌悪していた。最初、街をみた時、なんて平和なんだと。差別も何もないと、俺はそう思った。いかに自分の目が節穴なのか、浅い人間なのかを思い知らされたような気がした。
「でも今は、私は幸せです。こんなにお優しい方に、拾っていただけたのですから」
アルゥは力を抜いて、その頭を俺の胸に寄せた。毛並みのいい耳毛が、首筋にあたってすこしくすぐったい。
「拾ったなんて、そんなこと言うなよ」
「いいえ、拾って頂いたのです。文字通り、そこに落ちていたのですから」
「……じゃあ、俺の方こそ幸せもんだな」
彼女は驚いたようにこちらを見上げる。俺はその宝石のような瞳を見ながら、言った。
「こんなに良い拾い物をしたんだから」
すると彼女は毛を逆立て、ばっと抱きついてきた。
「もう! ご主人様! やっぱり愛しています!」
その力強さに、少し骨が
「こらこら、抱きつき過ぎだ! それこそ誰かに見られたら、
「ふふふふふ、いいのです、そんなことはもうどうでも。周りが何を言おうと、私にはもう関係ありませんから!」
「わかった! わかったけど! だとしても少し痛い!」
「――ご存知でしたか? 本気の愛というのは、時として痛みを伴うことを!」
「なにそれ怖い!」
そんな、子供のような戯れをしながら、俺たちは野宿し、朝を迎えた。
◆
「運命の再会ですね」
翌朝。
ギルドの門を開くと、たちまちアルゥの機嫌が悪くなった。原因は、目の前にいる、真紅のフレアスカートである。ギルド屋でクレームを叩きつけていたあの少女が、店内で仁王立ちしていたのである。
「――ちょうどいい機会じゃあありませんか。聞いてみたいことが、あったのですよね?」
アルゥの笑顔の圧がすごかった。
「勘弁してくれよ……」
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