第15話 狼少女と新たなる邂逅

 初収入を得た俺たちは、服屋に向かった。


 服の種類は豊富で、いわゆるファストファッション的なものから、民族衣装的なものまで豊富にあった。とはいえ、食料品を売ったくらいでは大した商品は買えない。俺は入手した金のおおよそ半分を女性店員に渡し、見繕みつくろってもらった。


「おお!」


 さっそくその服に着替えたアルゥが奥から出てくる。


「いかがでしょうか、ご主人様」


 肩口が広く開いた深海色の長袖ワンピースを褐色の帯布で結いた、村娘スタイル。ゆったりめのサイズが、彼女の華奢きゃしゃなスタイルを際立たせていてる。


「い、いいんじゃないかな」


 俺は恥ずかしさを誤魔化ごまかすように目線を逸らした。それでもちゃんと伝わったらしい。アルゥもそれが気に入ったらしく、結局それを購入することになった。


「――よろしかったのですか? こんなに高価な物を頂いてしまって」


 店を出て、なんとなく露店物色に足が運ぼうとしているところで、アルゥが言った。


「せっかくの収入が半分になってしまいました。ご主人様ももっと良い服や、装備が欲しかったのではありませんか?」


 そう言いながらも、顔は嬉しさのあまりニヤけているアルゥ。


「それだけの物が買えたんだから、良かったんじゃないかな」


 俺がそういうと、アルゥは面白そうにこちらの表情を覗き込んでくる。


「まぁ、だ。クエストを受ければ金は手に入るし、装備品も今の所困ってはいないし。だとしたら、まずお前の服を優先するのは、当然というかだな。つまり……」

「ふふーん?」

「――先行投資だっ」


 照れ隠ししているのが分かるらしく、彼女は満足そうに俺の腕を取り、頬を寄せてくる。


「素直に、大事にしているのだと、伝えて頂いてもよろしいのですよ」


 女性に密着されること。そして好意を寄せられること。どちらも不慣れな俺の心臓がバクバクとなっている。それはアルゥにも聞こえてしまっているのではないかというほど、大きな音だった。


「これは、ご期待に応えなければなりませんね」

「……そうしてくれると、ありがたいんだが」

「ふふ。おまかせ下さい。約束は守ります。刃にも盾にもなって、必ずや貴方様のお役にたってみせます」

「頼んだよ」


 そして俺たちは顔を見合わせ、少しだけ笑った。



 物色を終えた後、俺達はギルドと呼ばれる場所に向かった。


 アルゥに聞く所によれば、ギルドというのは要するに御用聞き屋であるという。ギルドには数多の依頼が集められている。例えば家の修復の手伝いや、草刈り、その他生活の上で必要不可欠な重労働の補佐。そういった初歩的なものから、エネミーの駆除や遠征同行の依頼などの戦闘力を求めるものなど、その種類は多岐に渡る。


 そうして集められた依頼を集計し、クエストとして開示、受託者を選定するのがギルドのもう一つの役目だ。依頼を成功した回数に応じて、ギルドの信頼も上がっていき、より高難易度かつ高報酬な依頼も引き受けさせてもらえるようになる。こうして、ギルドが仲介した仕事のみをその生計としている人々もいるという。そんな彼らのことを、その生き方になぞらえて「冒険者」と呼んでいるらしい。


「ここがギルドか」

「……のようですね」


 ギルドの看板はこれまたわかりやすく、交差した二本の剣の間に宝石が描かれている。


「良いクエストがあると良いですね」

「そうだな。いきなり無理難題を押し付けられたら、心が折れてしまいそうだ」

「ふふ、そうなったら、二人だけの悠々自適ゆうゆうじてきな生活を楽しめば良いじゃありませんか」

「それも悪くないかもしれないけどな」


 俺達はそこに出入りする男たちの身なりや立ち居振る舞いから、ギルドだと確信をもって、その扉を開けた。


 ――その時だった。


「いったいどういうことなのよ!!」


 若い女性の怒号がギルド内に響き渡った。


「わたくしの依頼に問題があるとでも言いたいのかしら!!」

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