第14話 交易都市アイデルハルン
街道には、人が溢れかえっていた。
「すごい……人だ、人だ!」
交易都市アイデルハルンの
海は常に
街の中心と思われる
「感動した」
「ふふ、大げさですよ」
この世界に来て、クラスメート以外の人に会うのがそもそも初めてだった。それが、こんなにたくさん、それも、しっかりとした社会性を持って存在しているのだから、感動しない訳がない。それほど、俺たちの生活は原始的だったのだから。
「しかし」
俺は人々の観察をしばらくしてから、アルゥを見た。
「ああ」
アルゥは俺の様子とその視線から、何を考えていたのか、すぐにわかったらしい。
「私達のような種族は、いわば希少種なのですよ」
アルゥは耳をぴくぴくと動かしながら言った。
「わかっちゃったか」
「ご主人様がわかりやすすぎるのですよ。――ここは人間の街ですからね。良い意味でも、悪い意味でも」
そういう彼女の表情は少し暗い。
「さて、ご主人様」
それをごまかすように、彼女はくるっとこちらに振り向き、人差し指を立てた。
「さっそく目的を達成してしまいましょう。善は急げと言いますし」
「……そうだったな」
街道を少し行くと、一回り大きな建物があった。看板には、ひと目でアイテムだとわかる宝箱の絵と、これまたひと目でわかるお金の絵が並び、そしてその間に矢印が引かれていた。――買取所。ここが最初の目的地だ。
「はい、お次は、そこの兄ちゃん」
並んでいると、威勢のいい男性がこちらに手招きしている。店員だろう。
「じゃあ、私はここで待っておりますので。いってらっしゃいませ」
アルゥはそういって、店の中程で立ち止まった。
商談は一対一でやるのがマナーなのだろうか?
俺は
「買取かい?」
「はい」
「じゃあ、買い取ってほしいものをそこに並べてくれ」
男性店員がそういうと、ヘルプメニューが立ち上がった。
――なるほど。
ヘルプメニューには、商品取引の方法が詳細に記されていた。表示されたアイテムボックスから、売却ボックスにアイテムを移動させると、商談が開始されるようになっているらしい。
俺はその操作方法に習って、大漁の肉アイテムを移動する。すると、男性店員の前の木製テーブルに、それら肉アイテムが現れた。
これらの肉アイテムは、この街に向かう道すがら、アルゥと協力して集めたものだ。無一文で街に向かうのは気が引けるということで、少しでも金になるものを持ってこようと考えたのだ。
「これを売りたいのですが」
「ほう、イノシシ肉と……ファットラビットの肉、それと薬草類が少々、あとは……キンドルチキンの肝か。これはなかなかのものだぜ」
店員は素早くウィンドウを開き、品質を確認している。ゲームになれた俺より何倍も手慣れている。その操作を続けながら、男は言った。
「希望価格は?」
「……おまかせします」
俺が淡々とそういうと、男は手をとめて、こちらをちらっと見た。
希望価格など、わかるはずがない。商談できるだけの知識がこちらにないから、言い値で買い取ってもらうしか他ない。買い叩かれるかも知れないが、それも勉強代だと割り切るしかないだろう。となれば、ビビるだけ無駄なので、俺は心を無にしてそう答えただけなのだが、相手にはどう映ったのだろうか。
「何か買いたいものでもあるのか?」
男が手をとめて、鋭い視線を送ってくる。
「服を」
俺が端的に答えると、男は納得したように
交換アイテム名に、ゼールと書いてある。このゼールというのは、おそらく通貨の単位だろう。交渉成立度合いを示すゲージが橙色に染まっている。かなり良い条件を出してもらえた、ということらしい。
「これで、いい服買ってやんな」
店員はそういって親指を立て、さらに俺の立ち去り際に背中を叩いた。
「どうでしたか?」
戻ってきた俺の表情を覗き込むように見つめるアルゥ。
「気に入られたらしい」
「それは良かったですね」
そういってアルゥは笑った。どうやら、最後のやり取りを見ていたらしい。
「まぁなんにせよ、金は手に入った」
俺は彼女の手を取り、言った。
「それじゃあ、真の目的を果たしに行こうか」
その呼びかけに、アルゥは頬を赤らめながら、はい、と頷いた。
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