EP-02. 金髪美少女

第13話 新しい目的

 道というには粗末な山道。

 段差を乗り越えた先で、アルゥがこちらに手を差し伸べている。その手をとって石段を登ると、開けた視界に息を飲んだ。


「ここまでくれば、あと少しですよ。ご主人様」


 眼下、遠方に広がる海岸線。まるで海と陸地を縁取ふちどるように立ち並ぶ建造物が、確かに人の息吹を感じさせた。


「あれが、交易都市アイデルハルン――」


 それはこの世界にやってきて、初めて目にする「街」だった。



 


 遡ること、二日。


「金がない」


 俺の言葉に、アルゥが目を丸くする。

 アルゥが仲間になった所で、さて、この先どうしようか、という話になった。


「お金、ですか」


 真っ先に考えたのは、生活品質の向上だ。

 俺は一通りの生産スキルを習得しているため、基本的な物なら装備にしろ衣類にしろ、なんでも生産できる。とはいえ、それを全部自分で行うのはさすがに生産性が悪すぎる。生産には時間を要するし、材料だって必要だ。材料を採取するにはエネミーとの戦闘は避けられないし、そうなると回復アイテムや食料品の確保も重要になってくる。目的がない、とは言ったものの、ただ生きるだけで、リソースは消費されていく。


 ならば、金で購入すれば良い。

 ――それだけの話なのだが、肝心のその金が無いのだ。


迂闊うかつだったなぁ」


 村での生活は、クラスという集団を最大限に活用した自給自足の生活だった。他の村との交流がないため物流は生まれず、物流が無いなら金も生まれない。生きていくのにお金が必要なかったために、そこまで考えが及ばなかったのだ。


「ご主人様はお金が欲しいのですか?」


 そう言われると金の亡者のように聞こえる。間違ってはいないのだが。俺は咳払いして、それに答える。


「正確には、お金と引き換えに得られるものが欲しい、って所だな」

「ほむ」

「まずは着るものをなんとかしたいかな。特に、お前のやつを」


 俺はアルゥを指差していった。彼女が身につけていたものは、衣類と呼ぶにはあまりに粗末で、ボロボロだった。


「さすがに、女の子にそんな格好をさせたままじゃあ、ね」


 そういうと、アルゥはぱぁと顔を明るくさせ、わかりやすく喜んでいる。


「嬉しいです。ご主人様に女の子扱いされるなんて」


 当たり前なのになぁ、と思いつつ、その言葉の含みが少し気になった。


「そういえば、アルゥは今いくつなの?」


 思い浮かんだ疑問をそのまま口にしただけなのだが、アルゥは圧を感じる笑顔でにじり寄ってきた。


「女性に年齢を聞くのは感心しませんよ?」

「……はい」


 アルゥの謎がまた一つ増えた。


「でも、お礼という訳じゃありませんが――」


 アルゥは手を後ろで組み、片目を閉じた。


「ご主人様は、お金を稼ぐ方法に心当たりはありますか?」

「……ない、な」


 生産スキルも習得しているとはいえ、こんな序盤に使用できるもので金を稼げるとは思えない。それに、俺はこの世界の常識がまるでわからない。

 どんなゲームでも、序盤の資金は潤沢とは言えず、効率的に稼ぐ方法が追加されるのは、中盤になってからだ。


「それでは、クエストを受けるのが良いのではないかと」

「クエスト!」

「まぁ、言ってしまえば、なんでも屋です。ご主人様はランク2になりましたから、そこそこ稼げるのではないかと思います」


 クエストといえば、RPGのど定番だ。依頼を選択し達成すると、経験値やお金がもらえるというのが、クエストの基本的なシステムだ。――しかし。


「それはどこで受けるんだ?」


 クエストを受託じゅたくするということは、依頼する人間がいるということだ。たいていは個人か、ギルドと呼ばれる行政所ぎょうせいじょで受託することになる。しかし、ここは森の中。行政所も無ければ、人っ子ひとりいない。


「人が集まる所にお金は集まります。ここから東に向かうと、大きな街があります」


 ――街――!!


「よろしければ、ご案内しますよ」


 こうして俺は、アルゥの案内で「交易都市アイデルハルン」を目指すことになったのだ。

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