第11話 夜を行く狼との出会い④

「イツキ様」


 食べ終わった頃、少女が呼んだ。


此度こたびは、命を救って頂き、誠にありがとうございます」


 少女は俺に向かい、三指みつゆびそろえて、深く頭を下げていた。


「そんな、大げさな」

「いえ、イツキ様がいなければ、私はあのまま息絶えていたでしょう。この命は、イツキ様がくださったも同義です。つきましては、恩義をお返ししたいと存じます」


 彼女は先程までとは別人のように、流暢りゅうちょうな言葉で話していた。まるで古き良き日本の文化のようで、それが彼女の見た目の幼さとミスマッチだと思った。


 ――いったいどんな人生を送ってきているんだ?


「なんなりとお申し付けを」


 彼女は頭を下げたままピクリとも動かない。俺は胸が傷んだ。


「気にしなくていいよ」

「しかし!」

「いいんだ」


 俺は深くため息をついて、その場に座り込んだ。


「別に、恩を売りたかった訳じゃないし、買ってもらいたかった訳でもないから。見返りを求めてはいないよ」

「……失礼しました」

「ああ、いや、ごめん。感謝されるのに慣れてないだけなんだ。許してくれ」

「では、なぜ」

「……ただ、放っておけなかっただけだよ」


 彼女は黙って、俺を見ている。

 そしてその沈黙の中、あのメッセージが脳内に響いた。



『???の好感度が上昇しました』



 しかし俺はそれを無視した。


 好感度がなんなのかしらないが、その言葉の意味通りなら、それを稼ぐことになんの意味も感じられない。どうせ稼いだところで、人は簡単に見捨てるのだから。――俺のクラスメートのように。


「……これを君にあげるよ」


 目を点にしている彼女に、俺はバックパックを手渡した。


「その中には、便利なアイテムが入ってる。当面の役に立ってくれると思うよ。といっても、回復アイテムは全部使っちゃったけど」


 俺は彼女が受け取ったのを確認すると、立ち上がった。



『???の好感度が上昇しました』



「じゃあ、俺はこれで」

「――あの! イツキ様! どうしてここまでしてくれるのですか!?」


 彼女が俺の背中に声をかける。


「……目の前で、死にそうになっている子がいて。助けられるかも知れないとわかっていながらそれを見逃すのは、目覚めが悪いよ。もちろん、そんなことを考えてた訳じゃなくて、気がついたらそうしていただけで」



『???の好感度が上昇しました』



 ――うるさいシステムだなぁ。

 もうどうでもいいんだ。攻略なんて。俺はもうすぐ死ぬんだろうし。


「君が、命が救われたと思ってくれるなら、その生命を大切にしてくれ」


――キザだっていうのは、わかってる。でも、最後くらい、かっこつけたって

バチは当たらないだろう?



『???の好感度が上昇しました』



「それが、お礼だと思っておくから」


 ――どうせ、もう会うこともない。それを確かめることももうできないだろうけれど。



『???の好感度が上昇しました』 



「君の役にたててよかった。――幸せにね」


 ――せめて俺の代わりに、楽しい人生を。



『???の好感度が



 ――死ぬ間際に、美少女を攻略しました、ってか。

 ――彼女の一人や二人、欲しかったなぁ。なんて――



『――好感度マックス。対象を攻略しました。報酬を受け取りますか? ……攻略報酬を自動で取得しました――



 ――え?



 その瞬間、俺の体が光に包まれた。


 ――この光は――ランクアップの!?


 目前に表示されたステータスが、ぐんぐん上昇していく。これが、ランクアップ――



「イツキ様」


 気がつけば、女の子が俺の前に立て膝をついていた。


「ご無礼を、お許しください――」


 そしてその子は、俺の胸に飛び込んで――そして、抱きついてきた。


「私を、どうか一緒に連れて行ってください。貴方を――



 俺はこの日、念願のランクアップを果たした。

 ――美少女を攻略して。



「この生命、貴方とともに」


 

 ランクアップ報酬は、ケモミミ美少女だった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る