第9話 夜を行く狼との出会い②

「お、おい! 大丈夫か!」


 倒れた女の子を抱き上げる。痩せており、そして体中にひどい傷があった。意識はすでになく、呼吸も弱かった。


「いったい、なんだってんだ」


 俺は意識を彼女の額に集中した。浮かび上がってきたのは、彼女のステータス。名前の欄が「???」になっていて、読み取れない。


「なんだこの表記……って、キャラクターランク5!? って今はそんな場合じゃない! くそ、バッドステータスのオンパレードじゃないか!」


 HPバーは赤く染まり、残存HPを視認することが難しいほどだった。そして、状態異常を示すところには、疲労・低体温・出血・鈍足化など、見たこともないようなものが羅列られつされていた。


「くそ! 迷ってる暇はない!」


 俺は素早くかばんをまさぐり、回復ポーションを飲ませた。それに合わせて、HPバーが少しだけ回復していく。


「回復、した!? よし!」


 俺はそれを確認し、回復ポーションを次々に飲ませていく。


 この世界のエネミーに回復ポーションを効果がないことは、事前にテスト済みだ。つまりこの回復ポーションでHPが回復するということは、この子は俺たちと同じキャラクターサイドにいるということになる。


 ――それであれば、俺たちと同じように、どこから転生してきた、元は人間だった可能性が高い――


「そうなれば、これだって!」


 俺は次にバッドステータス解除用のポーションを使った。しかし、解除できたのは鈍足化だけで、疲労・出血・低体温は依然いぜんとしてそのままだ。出血ダメージにより、HPが徐々に減少していくのが、わかる。


「それなら!」


 俺はバックから取り出したアイテムで、諸々の処置を行った。出血は衣類を破いて作った包帯を出血している腕に巻くことで取り除けた。


「なんでこういう所だけ無駄にリアルな作りしてるんだよ……この世界は……っ!」


 残り二つのバッドステータスを解除するために、俺は彼女を抱きかかえて走った。しばらく行くと大木の根本にほらをみつけ、そこに彼女を寝かせる。そして着火用アイテムである火打ち石を使って火を起こし、暖を取った。


「いったい何者なんだろう、この子は」


 彼女は小柄だった。身長はおそらく140cmあるかないか。今どきの小学生女子よりも小さいが、しかし子供なのかといえば、そういう感じではない。元から、小柄な種族なのだろうか?


 種族といえば、この獣耳――。


 アニメや漫画で見た、とってつけたような獣耳が、しかししっかりと自然と生えている。さらに、布切れのような衣類からは、しっぽのようなものが見えている。相当な毛量と大きさで、広げれば彼女の体一つ分くらいはありそうだった。


 手首と足首には、何かで縛り付けられたような跡もある。それ以外にも、何かが打付けられたような傷やアザ。それらはまるで、日常的に体罰を受けてきた子供のようで、胸糞が悪くなった。


「しかしまぁ、どうしたもんかなぁ」


 勢いで助けてしまった。そしてそれによって、回復アイテムはなくなってしまった。


「まぁ、いいか。どうせ、生き残るつもりもないんだし」


 だったらせめて、最後にこの子の願いくらいは叶えてあげてもいいんじゃないか。


 ――たす……けて――


 人に頼られることの喜びを実感しつつ、いやな想いに蓋をするように、瞳を閉じた。

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