第4話 異世界で俺は救世主、だったのかも知れない①


「ライトニングスラッシュ!」


 委員長の東条とうじょうが叫ぶ。振るわれた彼の剣が金色こんじきに輝き、イノシシ型エネミーを切り裂いた。


「さすが東条。すごい威力だね。一撃なんて」


 彼の剣撃を受けたイノシシは倒れ、まるで空間に融解ゆうかいしていくように消失した。そして代わりに、わかりやすく型取りされた肉片が、空中に浮遊していた。――通算十個目のイノシシ肉。本日の目標達成だ。


一樹いつきのアドバイスのお陰だよ」


 東条は片手剣を担ぎ、申し訳無さそうに笑った。


「僕のステータスが片手剣向きで、しかも攻撃力特化に向いている――。そう気づかせてくれたから、この威力が出せるようになったんだ。あのアドバイスが無ければ、今頃は不向きな弓を使って、未だにイノシシ相手に苦戦していただろうからね」


 そういって東条は、イノシシ肉をつかみ取り、俺に向かって投げた。俺はそれを、背中にしょった大きなバックパックに押し込んでいく。


謙遜けんそんしないでくれよ、東条。助かってるのはむしろ、俺の方だよ。君の攻撃力が無ければ、こんなに効率よく食材も入手できなかった。みんな、君に感謝してる」


「はは、それはお互い様だよ、一樹いつき。一樹が導いてくれたから、今の僕たちがあるんだ。井波だって堂島どうじまだって、同じように思ってるよ」


 東条はそういって、爽やかに俺の肩を叩いた。


「――お互い尊敬しあえるってのは、いいことだよな」


 俺のつぶやきに対し、東条は「そうだな」と笑った。





 森を抜けて村に戻ると、井波さんが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、東条君、一樹君」


 井波さんはそれぞれを見て、優しい笑顔を向けてくれる。それを見て疲れが吹き飛ぶのは、きっと俺だけじゃないだろう。


「ただいま、井波。今日は大漁だよ」


 東条がそういって胸を張る傍らで、俺はバックパックからイノシシ肉を取り出し、作業台に並べていく。その個数は二○個それは目標の二倍だ。


「わぁ、すごい! これだけあれば、しばらくは困らないね!」


 そういって井波さんは肉を持ち上げ、その品質を確かめている。俺たちには見えないが、おそらくメニューを開いて肉の品質値を調べているのだろう。


「いつも美味しい料理をありがとう、井波。何か手伝うことはあるかな」


 東条がそう言うと、井波は首を振った。


「あとは任せて、東条君。料理は私の趣味みたいなもんだから。それに、あとで亜子が手伝ってくれるって言うから。二人は働いてきてくれたんだから、ゆっくり休んでてよ」

「ありがとう、井波。そうさせてもらうよ」


 そういって離れる俺たちを、井波さんは笑顔で見送ってくれた。





 村、というには小さなこの集落は、五月さつきの村、と呼ばれている。というか、俺達がそう命名した。


 洞窟で目覚めたあの日。井波さんと俺は洞窟を探索し、クラス全員を発見した。俺が井波さんを起こしたのと同じ要領で、最初に見つけた委員長の東条を井波さんが、そして二番目に見つけた人を東条が――といった感じで、次々に起こしていったのだ。


 クラス全員、総勢二五名を集めた俺は、そこまでで集めた情報をみんなに共有した。この世界がゲームのようであること、元の世界に帰るにも、まずは生き残る必要があること。


 東条がクラスをまとめあげてくれた。俺はその東条に意見を求められ、ゲーマーとしての知見を生かしてアドバイスし、みんなで協力して洞窟を脱出したのだ。


 その洞窟を出てすぐの場所に、廃屋を見つけた――それが、俺達の生活する五月さつきの村の始まりだった。五月という名の由来は、俺たちのクラスネームだった。


 以来、俺たちはこの村で自給自足の生活を続けている。期間としては、半年になる。廃れた廃屋は俺たちの手によって改善され、今ではなかなかの住環境となっている。安定した気候に、のどかな自然。授業や試験、そして校則――学校という柵から開放された俺たちは、以前よりもむしろ充実した生活を送っていた。


 そのせいか、誰も「前の世界の話」をしなくなっていた。





一樹いつき! 聞いてくれ!」


 昼食を食べ終わると、数人を引き連れた武重たけしげが、俺にステータス画面を開示してきた。


「俺もついにやったぜ!」


 武重のステータス画面を注視する。画面右下に表示されているキャラクターランクが、LV2になっていた。


「ランクアップ、おめでとう、武重君」


 それを聞きつけたクラスの連中が武重を取り囲み、彼を激励げきれいしていた。


「やったな! これで四人目か!」

「これでもっと強いエネミーを倒せるな!」

「そしたらもっと便利な生産アイテムを作れるかも!」


 みんなが武重のランクアップを喜んでいる。


「一樹、やっぱりお前の仮設は正しかったよ。スキルレベルを一定値以上にすれば、キャラクターランクが上がる。そして見てくれ、このステータスの伸びを!」


 武重のステータスは、LV1だったときと比べて二倍以上の伸びを見せていた。全てのステータスが二倍以上ということは、まさに別次元の強さを持っているということになる。前線で戦ってくれるクラスメートが強くなるということは、俺たちの安全がより盤石ばんじゃくなものになり、そして生活の質が豊かになるということだった。


「さすが、ゲーム攻略で有名なだけあるぜ、一樹。『神童イッキ』の通称は伊達じゃないな!」


 スキルレベルが一定以上になれば、キャラクターランクが上がる――。これは、ステータス画面を詳細に分析して、そこにゲーマーとしてのかんを織り交ぜた、予想に過ぎなかった。しかしこの予想は正しかったことがわかった。最初に東条がランクアップしてから、全員がこの方法でランクアップしている。


「スキル経験値の多くもらえるエネミーを優先して倒させてもらってるお陰だ。本当なら一樹の方が先にランクアップしたっておかしくなかった」

「……それは、武重君が頑張ったからだよ。俺のちからじゃない」

「なぁに言ってんだよ!」


 武重が俺の背中に張り手をする。ランクアップにより一層威力の増した張り手で、俺の体は大きく揺さぶられる。力が強くなっているのは、間違いないようだ。


「今まで誰も死なずに済んだのも、みんなお前のお陰だよ。これからも頼りにしてるぜ、一樹!」


 俺はそれに、作り笑顔でうなずくしかなかった。

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