確認と改善

 家につき自室へと向かった僕はベッドに身を委ねた。普段よりも疲れた身体をベッドは優しく包み込んでくれた。




 そんななかで学校を抜け出していたことを思い出す。自分で決めたことには変わりないのだがそれでも明日学校にいくことが憂鬱だ。




 福森さんはあまり気にしなさそうだけど、というよりも福森さんは仲間がいるからなんとかなるだろう。最悪笑い話程度にしかならない。




 でも、僕にはそんな仲間すらいない。友達だと胸を張って言える人がいない。


 作らなければならない。それも晴乃との約束に含まれるだろうことだから。




 そう思えば思うほどに自分の無力さが際立ってしまってテンションは落ちるところまで落ちそうだった。




 たぶん、ついさっき知ってしまったことに戸惑っているんだ。




 晴乃が僕を意識するようになった一年前の真実。


 晴乃が手術で成功する確率という真実。




 ふと、我に返ったとき天井に光をともしていないことに気がついた。けれど、このままで良いと思いなにもしなかった。




 僕は晴乃のことばかりを考えていて、恋をしていて、友達もいないくせに素敵な人を好きになって好きになられて、死という強大な壁に挑んでいる好きな人をたすけてあげられなくて、結局最低だ。




 そうだ。僕はどれだけ頑張ろうが結果的には最低になる。


 最低こそが僕の人生だ。






 最低な人生ならそれでもいい、けれど晴乃と関われたことは最高だ。そして、これからも晴乃がいるのなら僕の人生はそれだけできらびやかになる。




 僕には彼女の明るさが必要だから。




 携帯を手に取り晴乃に電話をかけた。でるわけないと思っていた。せめて留守番電話にだけでも、そんな気持ちで掛かけた。




「もしもし?どしたの楓君…」


「えっ!」


 電話にでたということに驚きを隠せないでいると、ため息が聞こえてきた。




「なに?でないの前提ならかけてこなきゃいいじゃん」


 そう口にはしているが、ふっと笑っているのも吐息から察することができた。だから、空気は重くなんかなかった。




「晴乃はさ、最悪待っててくれればいいから…」


「なにが?」


「遅くなるかも知れないけど僕が一歩一歩晴乃の方に向かっていくから。晴乃を支えられる人間になれるよう努力するから」


「あはは、なんだよー。お母さんから聞いちゃった?」




 晴乃は本当に鋭い。だから僕はこうして黙り混むことしかできなくなるんだ。


 でも、そんな僕に晴乃は怒ることもなく話し続けた。




「楓君がそう言うなら待っててもいいよ。けど、私はどれだけ成功率が少なかろうとリスクが大きかろうと逃げないし負けない。だって…楓君は強がりな私を助けてくれるから」




 そう言われて、いろんなことを思い出していた。


 痴漢を自ら撃退したり、なかなか素直にならずに涙を浮かべそうになったり、言いたくもない言葉を並べて自ら傷ついたり、友達に謝れなくて悩んでいたり。


 本当に君は…。




「うん。そうだね。君は弱いのに強がる。意地を張る。そんな姿が本当に好きなのかもしれない」




「え、もっかいいって。ほら、もう一回!」


 好きといわれたからだろうか、晴乃はテンションが高揚しているようだった。そういう意外と素直な一面も可愛いと思わされる。




「ごめん。なんていったか忘れた」


「むー。忘れてないくせにずるい。まあ、そんな所も好きだけどね」




 軽率にすきを言い合うなんてバカップルがやるちんけな愛情表現だとばかり思っていた。いや、実際間違ってはいないのだろうがそれを僕自身がやるとは思っていなかった。




 だが、すきをエンドレスしてない時点で成立すらしていないのでは、なんておもうが忘れよう。




「長くは待たせない。その間に気変わりされてもこまるし、二年。二年後には僕なりの言葉で晴乃に想いを伝える。これまでとこれからのことを考えた言葉で伝える」




「うん」


「じゃあ、きるね」


「またね。楓…」




 電話を切る指が一瞬止まった。でも、すぐに動いた。


 動いてくれてよかった。動くことがなければきっと今も通話は続いていただろう。


 なんとなくだけど、晴乃からは電話を切ってはくれないだろう。そういえる根拠としては、あることはあるが、まあそこまでない。




 ただ、晴乃が僕の名前を言ったとき泣いているように思えた。それだけのこと。

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