現実の裏話5

 長らく揺られていた車が次に止まったのは福森さんの最寄り駅のロータリーだった。

 信号機に恵まれていたということもあり予想より早くつくことができた。とはいっても時刻は二十一時前になっていた。


 欲をいえば僕の最寄り駅は通り越されてしまったのだけれどそんなのは強欲にすぎない。ここまで乗せてもらっただけでもどれだけ電車賃が浮いただろうか。


「叔母さんありがとう」

「いーえー」

 福森さんが晴乃のお母さんに挨拶をして車を降りようとしていた。すかさず僕も「ありがとうございました」と声にする。


 すると、晴乃のお母さんは首をかしげていた。その様子を見て僕も首をかしげ返すと晴乃のお母さんは「駅まで送るよ?」と口にした。


 その言葉をなぜか福森さんが否定した。

「大丈夫だよ。車で行くよりも電車の方が早いと思うし」

「えー、いいよー。叔母さんも用事あるからついでに送っていきます」

 そういって晴乃のお母さんは福森さんに敬礼していた。


 そもそも、この会話に一番入らなくてはいけない僕がなぜはいれていないのだろうか。

 それどころか、福森さんは何かを納得したようで気がつけばドアは閉められ車は走り出していた。


「さてと…」

 駅のロータリーを抜けたところで晴乃のお母さんがそう口にし、話を続けた。

「晴乃と楓君のこともっと聞かせてよ!」

 突然の高いテンションについていける自信もなく僕は当時のことをどれから話そうか考えた。


 痴漢と一緒に捕まえられたところか。

 つれまわされながらショッピングをしたことか。

 それとも、クラス内でのいざこざのこととか。いや、それなら電車内での他愛ない話とかの方がいいか。


「ごめんなさい。考えれば考える程にたくさんあって何から何を話したらいいか…」

「んー、じゃーあー。質問に答えて!」

「あ、それでいいならそれでお願いします」


 答えるだけならば簡単なことだと軽率な判断をした。僕が今話しているのが日暮晴乃の母親だということすらも忘れて。


「晴乃のことはいつから好きになったの?」

「…」

「む…。ねえ、ほら。はーやーくー」

 意外にも急かしてくる晴乃のお母さんにも僕は敵わないのだろう。


「実感したのは今朝、先生が晴乃の事を報告したときです。でも、本当はもっと以前から惹かれていました。たぶん…」


「じゃあ、晴乃との一番の想い出は?」

「二人で買い物に行きました。色々とあったんですけど結局僕が散々振り回されて終わりました」

「えー、もしかして楓君はパシリ体質?」

 そういってあははと笑っている晴乃のお母さんに気持ち強めに「違います」と告げた。すると余計に笑い出すのだからさすがに彼女の母親だ。


「じゃあ最後の質問」

 たった三つだけの質問。とはいえは気がつけば僕の知っている道通りに出ていた。この道を真っ直ぐ進んでいけば僕の最寄り駅につく。


「最後の質問はねー。もし、晴乃が助からない運命にあるとしてもあの子との約束を守れる?」

「助からないんですか?」

「確率の問題だよ。二度目の手術は難しくてね、今度は本当に意識すら戻らないかもしれない」

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