現実の裏話4

 晴乃との指を絡めた時間は凄くながった。声を出してしまえばこの幸せな一時が終わってしまうようでなにもしたくはなかった。




 晴乃もそう思ってくれたのだろうか。


 僕は彼女の沈黙も同じ理由であってほしいと願うばかりだ。けど、それでいいんだ。聞くことは大切なことではあるが聞かなくてもなんとなくわかる。




 僕の背には晴乃の想いが伝わっているから。たぶん。




「んで、なんの約束したの?」


 ふと、福森さんは僕にそう問う。だが、いまは晴乃のお母さんの車の中だ。恥ずかしくて言えたものではない。




 そう思い、誤魔化そうとするが晴乃のお母さんに先手を打たれた。


「えー、何か約束したの?きかせてよ?」




 後部座席を定位置としている僕には運転手である晴乃のお母さんの表情は全く見えない。それなに、僕を楽しそうにからかっているというのは容易に察することができた。




 そもそも、こんな状況になったのは全てとは言えないが福森さんが悪い。


 僕と晴乃だけ二人で話してずるいだとか、なんだかんだごねて気がつけば面会時間も終わりを迎えていた。




 そうなれば晴乃のお母さんが送ってあげると言い出してもおかしくない。そういう気を使われるまえに僕は撤退しておきたかった。




 福森さんは慣れた人の車だから良いのかもしれないが僕は晴乃の家の車だと言うだけで変に緊張してしまう。




「で?早く言えば?」


 助手席に座っている福森さんから威圧的な何かを感じた。




 恐怖に負けた僕は口を開く。


「少なくとも晴乃の病気がな治るまでは会わないって約束した」


 すこしばかりの言葉足らずだろうがそれでも内容としては間違ってはいないだろう。




 信号は赤に変わり車が静かに止まると晴乃のお母さんが静かな声で話し始めた。


「晴乃はたぶん本気よ?」


「僕もです」




 福森さんは内容を理解できていないようで僕と晴乃のお母さんを交互に何度も見比べた。




 そんな福森さんを横目に笑みを浮かべる晴乃のお母さんが窓に映って見えた。


「楓君は本当にいいの?晴乃は色んな人と付き合って別れて、死ぬかもれしないこんなときにようやく楓君を見つけた。けど、楓君はまだ他にも出会いかあるでしょう」




 言いたいことがわかってしまうだけに言葉がつまってしまう。けれど、なにも言えない訳じゃない。


 僕には僕なりの理由かちゃんとあるのだから。




「最近思うんです。僕は晴乃に会うために生きてきたんじゃないのかなって。大袈裟だ、って笑われるかもしれないですけどこんなに気の落ち着く相手、他には考えられない。僕は慎重な正確なので当たりを引く確率は百パーセントだと思います」




 前を見ることはとても難しくて僕の柄には合わないのだろう。それを晴乃にはきっと笑うだろう。けど、決して見放したりはしない。




 僕は共感されたい訳じゃない。優しくされたい訳じゃない。気を使われたい訳じゃない。




 僕は本物を記してくれる人を求めていた。その人がきっと僕の生きる理由のヒントになると思っていたから。




 意外にもその人は僕を導くようで導かれながらも一緒に歩いてくれるような明るい人だった。


 面倒だと思わされることもあれば心を奪われてしまうこともある。そんな上下左右に振られるジェットコースターのような、日々は案外悪くなかった




 そして、互いの進む道は真逆にあるのだと察した。だからいずれ交わるであろう場所を待ち合わせに。いや、新たな出発点として僕らはこれからを生きる。




 それが意味を成すこととはきっと世に言う『結婚』なのかもしれない。


 晴乃がどこまで見据えているのかは分からないが僕は少なからずそう思われていても…かまわない。




 長らく止められていた信号機は青に変わり車は再びエンジン音をきかせて走り出す。

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