現実の裏話2
僕の的をはずした発言を前に日暮さんのお母さんは目を丸くし、少し遅れてゆっくりと口元を歪ませていった。
それから、僕の肩を何度も叩き笑い始めた。
「何この子。めちゃ面白いんだけど!」
そういって笑っている日暮さんのお母さんを福森さんはなんとか止めようと口を挟んでくれた。
「叔母さん、この人が杉咲楓だよ」
「えっ」
僕の名前を出した途端に日暮さんのお母さんは表情を曇らせ僕の肩から手をどけた。やはり、僕は親族の方にあまりよく見られてはいないみたいだ。
「君が楓君…」
「はい。日暮さんの様子を伺いにきました」
「ごめんね。楓君には沢山の感謝があるけれど、晴乃の部屋には入れてあげられない」
渋々、口にする日暮さんのお母さんに対して福森さんは「なんで!」と声をあらげた。だから、僕は福森さんに大丈夫だと言うことを目で訴えた。
最悪、福森さんから状況を聞ければそれでもいいのだからここで二人とも帰らされてはそれこそ無駄足になってしまう。
日暮さんの病室に案内される福森さんを見送ってから僕は待合室で一人寂しく待つことにした。日暮さんがどういった状況なのか知りたい。
けれど、知りたくない気持ちもあった。そんな怖さから僕は会えないという言い訳に身を落ち着かせたのだろう。
「暗いぞ!楓君…」
目を疑った。あり得ることない現実を。想像を越えた喜びの先に待ち受けているのはパニックしかない。
意識のないと聞いていた日暮さんは車椅子に座って僕の前に現れた。
パニクった脳をなんとか活用し日暮さんの後ろにいるお母さんに問う。
「僕は会っちゃだめなんじゃ…」
すると、日暮さんのお母さんは首をかしげ口にする。
「会っちゃだめなんて言ってないでしょ。ただ、この子の病室にはちょっと…ね。男の子に見せたら恥ずかしいものがちらほらとしてるから」
「あーもう。お母さんは余計なこと言わないで!」
「あらごめんなさーい」
膨れる日暮さんをお母さんは軽くあしらうかのように手玉にとっていた。流石は何年も日暮さんのお母さんをしている人だと感心してしまう。
ふと、福森さんの姿がないことに気がつき問う。
「福森さんは?」
「んーとね、なんかわかんないけど飲み物買いにいくって」
そう答える日暮さんをみてお母さんはニヤニヤしながら何かを耳打ちしていた。その途端に日暮さんの頬は赤く染まりお母さんを叩いた。
「もう、そんなんじゃないってば!」
「ふーん。じゃあお母さんも飲み物買ってこようかなー、じゃあねー」
手をヒラヒラとさせ、日暮さんのお母さんは明るい笑みを浮かべながらこの場を去っていった。
僕と日暮さんとの間には沈黙が流れていた。そんななんでもない時間は懐かしくて心地よく感じた。それでも、何かを話さなくてはという焦りはあった。
その末に僕の出した話題は、病気についてだった。
「意識無いって聞いてたから…ビックリした」
「うん、昨日の夜。目が覚めてお母さんが泣いてたんだよね。てか、私の手術失敗だってさ」
笑みを浮かべてそう口にする日暮さんに何て声をかけていいのかわからずに僕は笑みを浮かべる。
「なら、やり直せる」
「なに?」と日暮さんは首をかしげていた。
まだ、可能性がある。そう知らされると複雑な感情に支配されそうになる。日暮さんには生きもらうための手術を受けてほしい何度でも。だが、それはその分だけ日暮さんに傷を作ることになる。僕はどっちを望めばいい。いや、望まなくてもいいのかもしれない。僕の答えはきっと日暮さんの選ぶ答えなのだから。
相応と無性に彼女を抱き締めたくなった。いや、もう手遅れだった。
「えっ、ちょっと。な、なにしてんの」
そう戸惑いなからも日暮さんは僕を受け入れてくれた。
始めて身体を合わせると彼女の温かさを感じた。そして、これほどまでに細くなってしまったのだと現実を思い知らされた。
「ごめん日暮さん。痴漢だとか思うなら訴えていいよ。でも、今は君を抱き締めたかった。当たり前だけど君が、晴乃が生きていて本当に良かった」
想いは言葉にしなきゃ伝わらない。
想いは行動にしなければ信じてもらえない。
想いは思うことから全てがはじまり終わるまで消えることない灯火となり僕を輝かせる。
かつて、君が僕をてらしてくれたように。今度は僕が君の太陽になりたい。
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