真実は突然に5

「結局、来たんじゃない」


「いつまでも部屋にいられると不安でしょ」




 涙を拭うことも隠すこともせずに日暮さんは当たり前のように話を続けていた。なおさら聞くわけにはいかなくなった。




 僕としては言葉にしない言い訳の一つを提示されたのだから喜ばしいこと。




 いや…違うだろ。




 言葉にする日暮さんの唇、声は震えていて、僕を見る目も今までとは全く違う。


 日暮さんが僕に何を求めているのかなんてことは何も分かりはしない。だったら僕は楽な道よりも正しい道を歩みたい。




 僕はゆっくり日暮さんに近寄り隣に腰かけた。意外な行動だったのか物凄く驚かれていた。けど、僕には聞いておかなければならないことがあるから。




「日暮さんはなんで、学校来れないの?」


「…」


「その痩せ細った身体をみても僕が無関心でいると思った?」


「…」




 何も答えてはくれない日暮さんの気持ちは分かる。というよりも答えてくれないというのが既に答えなのだ。




 だから、僕は日暮さんのいつもの悪ふざけであってほしいと心から願った。


「な、なーんてね。驚いた?たいした理由ないよ?」




 僕のもとめていた言葉はいただけたのだろう。けれど、日暮さんの今にも泣き出しそうな作り笑いは余計に僕の胸を締め付ける。




 僕がベッドに背をつけると日暮さんは消え入りそうな声で呟いた


「嘘…」


「うん。知ってる」


「私さ、少しだけ身体弱くてさ。だから、簡単な手術しなくちゃいけないんだよ。バスケもそのために辞めるしかなかった」


「福森さんは知ってるの?」


 僕が問うと日暮さんは「うん」とだけ答えてくれた。




「いつ頃手術するの?」


「八月の頭だよ。だから、今日はそれだけ言いたかったんだけど…ダメだね。楓君に気がつかれるような事ばっかして自分からはいえないなんてさ」




 そういって日暮さんも僕の横に背をつけ寝そべった。ふいに香る甘い匂いに顔が熱くなった。けれど、なんとなくこの時間を終わらせるのは勿体ない気がしてしまった。




「日暮さんってどんな食べ物が好き?」


「なに?いきなり」




 確かに突然なにをきいているのだろうと思われてしまってもおかしくはない。でも、僕は日暮さんのことをよく知らない。でも知りたいと思っている。




「日暮さんを知りたいから」


「なにそれ」といい日暮さんはんふふと笑っていた。そして、笑い終えると答えてくれた。




「天ぷらとか唐揚げとか、とにかく揚げ物は凄く好きだよ」


「好きな色は?」


「赤紫」


「好きな電車は?」


「東武伊勢崎線?てかそんなの聞いてどうすんの」




 正直、質問なんてものはなんでもよかった。ただ、いま日暮さんを引き留めなければどこか遠くへ行ってしまうような気がしたんだ。

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