真実は突然に2

 学校と言う必要最低限の労働を終え、僕は一人電車に揺られながら携帯を眺めていた。


 昨晩、日暮さんから送られてきたメールに返信をすれば良いのだから悩むようなことはない。




 それに何事も二回目と言うのは軽い気持ちでいられる。指を動かし、即送信。




 こんな簡単なことが昨日はなぜ出来なかったのか不思議で仕方がない。


 携帯をズボンのポケットにしまい外の景色を眺めていると太もも辺りに振動を感じた。




 携帯を取り出し、開いてみるとそこには日暮さんからのメール通知が表示されていた。


「はやいな…」




 小さく呟きながらも喜んでいる自分がいるということを素直に受け止めた。




 浮かれ気分のままメールを開き、返信を確認した。その返信に僕は動揺が隠せなくなってしまいそうだった。




『またメールしてね。いつでも待ってます』という、日暮さんのメールに対して僕は『そっちからはしてこないんだー』と送った。




 我ながら今時の人っぽいと思ってしまうくらいに丁度良い返信だと思う。


 だが、問題なのはその後の日暮さんの返信だ。




『じゃあ、一時間後電話するから笑』




 確かに一時間後なら僕もいろいろと準備が出来ているだろう。そもそも準備なんてなにもないのでは。




 電話と言うだけで緊張してしまう不甲斐ない自分がいる。最近のSNSでは電話などが容易に出来てしまうことを少しだけ恨んだ。




 最寄り駅に着くと一目散に改札を出て家路を急ぐ。その時だ、僕の携帯のバイブが激しく振動し始めた。




 まさか、と思いながらも携帯を開くと日暮さんからの電話だった。




 やはり、全然約束守ってくれない。それが彼女らしいと思うとなんだか慌てることすらもバカらしく思えてしまった。




「もしもし?」


「わっ、でたっ」




 僕が電話に出ないと思ってかけているのだとしたら、本当に何がしたいのだか。




 少し呆れるように僕は口にする。


「普通、電話がくれば出るでしょ」


「あはは、楓君に普通を教わるときがくるとは思わなかったな~」


 高揚している彼女の声は凄く懐かしくて胸が熱くなる。が、口にされる言葉は控えめにいって腹が立つ。




 そう思いつつも家に向かって歩いていると日暮さんは落ち着いた声色で話し始める。


「やあ、久しぶりだね」


「うん。久しぶり」




 こんな些細な挨拶一つでようやく話せた気持ちになれた。うるさいはずの日暮さんの落ち着いた声は妙に心地好くて、これがギャップというものだろうか。




「夏希から聞いて笑い止まらなかったよー」


「何の話?」


「体育祭で二回も転んだ運動不足なクラスメイトの話」




 いつもと変わらず彼女は僕をいじめる方向で話をすすめようとしているらしい。だからしらばっくれてしまうことにした。




「へー、そんな人いたんだー」


「そうそう。ほんとダメダメだよね~。んふふ」


「まあ、結構頑張ってるんだと思うけどね。知らないけど」


「頑張ったと思うよ、楓君は。だから私だって頑張らないと…。ねぇ!」




 突然に声量をあげるものだから耳がいたいと思った。


「なに?」




 嫌悪感を出しながらそうたずねてみると日暮さんは相変わらずの高揚した声色で話し始める。




「私さ、日曜日だけは空いてるから出掛けようよ」


「ごめん、僕は日曜だけ空いてない」


「どこでなにするか答えなさい」


 日暮さんは僕の母親にでも立候補しちゃってるのだろうか。そう思いながらも正直に答えた。




「一週間のストレスを自宅で癒す」


「ふーん、じゃあ私が家にいけば良いってことね。了解です」


「いや、そもそも僕の家知らないでしょ?」


「あ、ごめん。お母さんは来ちゃったから電話切るね。じゃあ、日曜行くから!」




 そう言い残したまま電話は途絶えてしまった。別に構わないが電話のあとというのはなぜだかメールをしずらくなっているもので、その後連絡は取らなかった。




 きっと住所をおしえろとかなんとか言うために日暮さんからメールが来るのだろう。そう思いながらも僕は約束の日曜日の朝を迎えていた。




「で、何でいるわけ?」


 当然かのように人の家のリビングにて、人の叔母と朝食をとっている日暮さんにたずねる。




 すると、日暮さんは頬を赤らめつつも食べる手を止めて話してくれた。


「時子さんとはちょっとした知り合いなんだ~」


「んね~」




 日暮さんを守るかのように発せられた時子尾羽さんの声が憎たらしかった。




 僕のことなど放っておき、楽しそうに談笑二人を見ていると受け入れなくてはいけない現実が世の中には本当にあるのだと思わされる。




 この現実を受け入れた先には何もないのだが、僕はそれを知っていても受け入れることを選ぶだろう。


 そう言える根拠は、二人とも大切な人だから。

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