真実は突然に1
沈黙のなか電車内に鳴り響くアナウンス。
僕は目の前にいる福森さんに話しかけようとしているのだが、今一歩踏み出せずにいた。
それは彼女が僕から目を背けたからだ。
昨日までは僕を見かければ彼女の方から話しかけてきていたと言うのになぜこんな扱いを受けるのか、凄く悩んでいる。
僕の思い込みかもしれない、話しかけてみれば普段と同じように口を利いてくれる。
いや、僕が何かの地雷を気がつかずに踏んでいてそれに怒っているのかもしれない。
どちらも僕なら起こりえることで現実味があった。
その結果話しかけないのが一番なのだろう。こういう考え方は根本的に改善されることはないだろう。
それでも、僕は自分の中の一番の選択が世間での一番の選択だとは思えない。そして、世間での一番の選択が福森さんにとっての一番の選択だとも思えない。
だから僕が考えなくてはならないこと、それは福森さんにとっての一番の選択だ。
そこまでの答えは導き出せたのに他は何も思い浮かんでこなかった。
話しかけるか話しかけないか。この二択のどっちかがハズレ。もしくはどちらもハズレ。
当たりの確率は良くても半分だろう。
そう思っていると福森さんは僕の方へと歩いてきた。
向こうから近寄ってくる。これは一番の選択なのではないか。
「あのさ、あんま見られてると恥ずかしいからやめてよ」
福森さんは自身の髪の毛を人差し指でくるくるといじりながらそんなことを言ってきた。
「そんなに見てた?」
「超見てた。まじでストーカーレベル。いや、ストーカーは気がつかれないようにするけどあんたはバレバレだからストーカー見習いレベル」
大人しく聞いているとストーカーの見習いが登場して思わずふっと笑ってましう。
すると、福森さんは僕を覗き込むかのようにぐいぐい身を寄せてきた。
「な、なに?」
福森さんは珍しいものを見たときにするよな目を見開いた表情で頷いていた。
「うん。杉咲って笑ってると可愛いよ」
「え。普通に嬉しくないし」
「まあ、褒めてはないからね」
そんな話をしていると降りるべき駅はすぐにやって来た。
日暮さんの時と同様に、人と話していれば電車なんてあっという間なのだ。
電車を降りれば別れて、また教室で会うことになる。女の子は色々と大変そうだからそうでもしないと自分の立場を守れないのだろう。
やがて、アナウンスとともにドアが開いた。
僕は福森さんよりも数歩先を歩いていた。そうすればなにも気を使われずにおさらばできる。
「ねぇ、先に行かないでよ」
意外な言葉を言われて思わず立ち止まってしまう。
「福森さんは友達と行かないの?」
「行くよ」
「だったら…」
次の言葉を口に出そうとしたとき、彼女は僕の目の前まで来てこちらに向かって真っ直ぐ指を差した。
その意味がわからず首をかしげていると消えるような溜め息が聞こえてきた。
「杉咲も友達でしょ。私は晴乃と違って女子と待ち合わせとかしないタイプ。出会った友達と出会ったときの気分で一緒にいくか決めてる。今日は杉咲っていう友達と行くことに決めました」
決めましたと言われても良いのだろうか。僕は自分がかけてしまうであろう迷惑を慌てて口にした。
「僕と一緒にいたら変だと思われるよ。他にも噂とかでなんか話ふくらんだりして迷惑かけるかもしれないし。あと、僕は歩くの速いし会話面白くないし。とにかく迷惑になるよ」
指折り数えながらも必死で話していると福森さんはあははと笑い始めた。
それからは夢のようだった。
彼女に手を引かれて改札を抜ける。その時、僕の耳には微かな声が聞こえた。
微かではあるが何を言っているのか、誰が言っているのか。それだけは明確だった。
声にしたのは福森さん。そして、彼女のいった言葉…それは。
『ごめんね』
なにに謝ったのかは分からないが一つだけ分かっていることがある。
それは、僕は意外と強引な女の子も嫌いではないのだと言うこと。むしろこんな軟弱な僕を引っ張ってくれる人は大切だ。
だから手を引かれたことは別に良かった。けれど、この手を引いてくれるのが日暮さんならどんな感覚なのだろう。と思ってしまう。
身体をふれあい思い浮かぶのは忌々しく笑みを浮かべるうるさい彼女。僕は気がつかぬうちに少しだけ惹かれていたのかもしれない。
よし、今夜もメールをしてみよう。
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