恋い焦がれる乙女の一面(終)
クラスメイトの人達からは本当にたくさんのメールが届く。どれも私を心配する思いから送信されているのだと思う。
そんな、些細なメールは私の折れそうになる心を保つための言わばテープのような物だ。手にすることは難しくなくて、それでいて終わりを迎えるのもそこそこに早い。
私達は生きるなかで人と言うテープを何回も取り換えていくのだろうと考えてしまう。何をいってるのか私自身よくわからない。たぶん、暇なんだ。
皆が学校に向かう時刻になると校内を想像してしまうし、私も早く戻りたいと思ってしまう。
身体を起こし携帯を開く。それでも楓君からの返信はなかった。もともと、返信をすると言う当たり前のことが出来ない人なのだから仕方ない。
そう思うと気持ちが落ち着いて、つい頬が緩む。
昨晩は楓君からのメールが途絶えたところで夏希に電話をした。
なにを話したかはわからないくらいに私が一方的に楽しく話し込んでしまった。その興奮状態の自分を見つめ直すと恥ずかしくて死にたくもなる。
今の私は籠の中の鳥のようで、けれどたった一人のメールで幸せな気分にさせられている。
私もこれまで何回か異性とのお付き合いをしたことがある。勿論ちゃんと好きだった。
けれど、恥ずかしくて死にたいなんて思わされたことがなければ、たかがメールでここまで興奮したこともない。
私は人をここまで好きになったことがなかったんだ。
今晩もメールこないかな?
今度は私から送ってみるのもありかな?
なんて送れば楓君はめんどくさそうな表情を浮かべて仕方なく返信してくれるだろう。そもそも私が好きになった楓君はいつでも嫌そうな表情で愛嬌がない。
そんな顔の男の子が私の好みだなんて…。
そう思うと独りぼっちの自室には私だけの笑い声が響いていた。
時刻が正午を過ぎた頃、お母さんが昨晩と同じ三点セットをお盆にのせて部屋に入ってきた。
ノックがないことだけは不思議だったが特に気に止めることはなかった。ただ忘れただけなのだろうから。
そう思っていたがお母さんの様子は明らかに変だった。ただお昼ご飯を持ってきてくれただけなのにお母さんは涙を浮かべていた。
「なに?、なんで泣いてるわけ?私死ぬの?」
冗談混じりにそう問うと、お母さんは首を横にふり否定した。それなに?と私は首をかしげてたずねてみた。
「…ったね」
「え?聞こえないって」
「笑ったね」
そういって笑みを浮かべたまま涙も浮かべるお母さんをみて私は気がついた。私はただ生きているだけじゃ誰かを心配にさせるだけなのだと。
幸せな生き方が出来ないのなら私は、一生の親不孝者。
お母さんはお盆を私の足の上にことんとおき、すぐ出ていってしまった。
そんな姿をみて今さら逃げる必要もないのに…と思ってしまう。でも、そういう小さなことが私を幸せな気持ちにさせてくれる。
だから、私はお母さんにもいつか伝えたいと思う。私を生んでくれてありがとう。と。
それから楓君にも…。
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