仲直り2
完敗してしまった体育祭の渦から二週間という時間が経ち、校内は落ち着きを取り戻していた。
運動部の人達は三年生との最後の大会に向けて部活動に打ち込み始め、運動部じゃない人達もそれぞれの部活動に徹した。だから、僕は学期末テストに向けたテスト勉強を去年同様に先取りさせてもらっていた。
ただ、今年は去年と比べ少しばかり状況が良い方へと変わった。そのきっかけは、紛れもなくクラス対抗のリレーだった。
力尽きるまで走った僕をみて周囲が僕の本気を認めてくれたみたいだ。僕自身から言わせてみれば、ただの体力不足なのだが。
それでもクラスに居やすい空間ができたというのは現実なのだから素直に嬉しかった。
「杉咲、おはよ!」
普段よりも早めに教室につきテスト勉強をしていると福森さんが元気よく僕に挨拶してきた。
書く手を止め、僕も会釈をすると笑みを浮かべたまま僕の机に腰を下ろした。
「もうテスト勉強してんの?」
「うん。今年こそは一番になってやろうかと思ってね」
いつでも一位は狙っているのだが今年こそはという気持ちがものすごくあった。だからこれまで以上に徹底した勉強のやり方をした。
いつまで座っているのと言いたい気持ちをおさえ、嫌がる表情を浮かべ察してもらうと思った。だが、さすがは日暮さんの友達。僕の事なんかお構い無く話は進む。
今さらだが、本当に心地よくて手放したくはなかったと心底思う。それでも、そんなことを僕は口に出来ないだろう。
「今、晴乃の事考えた?」
福森さんは物凄く勘が鋭いのかもしれない。もしくは偶然。いや、きっと偶然だ。
「別に考えてはないよ」
彼女の考えを否定すると、妙な笑みを浮かべたまま僕を見下ろしてきた。その表情をして睨み付けるよにした見上げた。
「晴乃が学校に来ない理由知りたい?」
「そう言えば、仲直りは出来たの?」
福森さんはうんうんと頷き清々しい笑顔を向けてきた。こういうときの表情は凄く女の子らしいのだけれど、福森さんがあまり見せない表情の一つだ。
「いや、違う違う。晴乃が学校に来ない理由知りたくないの?」
一度は忘れてくれたと思っていたのだが、あの程度で話を中断することなど出来ないのだ。
本心を言えば知りたい。僕は自分の本気で少しだけ居やすい空間をつくれたんだって言いたい。
日暮さんは学校に来ないような人じゃないと思っている。なにか理由があって来れないのだろう。
だから、僕はその日まで…その日が来るまでじっと待ち続ける。
「たぶん、自分で思ってるよりも僕は日暮さんを信じてる。次会えた時には僕が振り回せるように。まあ、明日とか来ちゃったらまた僕が一方的に振り回されるけどね」
そう言って、僕が笑みを浮かべると福森さんははぁ、と溜め息をついて携帯の画面を僕に見せてきた。
その画面にはいつだかのアカウントが映っていた。だから僕は「あー、もってるよ?」と言葉にした。
すると、なぜか福森さんは先程よりも大きな溜め息をつく。
「ね、溜め息ばっかだと幸せ逃げるらしいよ?」
久しく口にしたジョークを聞いて福森さんは頭を抱えていた。そのわざとらしいリアクションに僕がイライラしていると彼女は口を開く。
「メールくらいしなよね。晴乃は今忙しくてしばらくは来れないから」
「しばらくって?」
「知らないよ。けど結構長く。べつに晴乃が嫌いってわけじゃないんでしょ?」
そう問われると頷くことしか出来ない。でも、僕が日暮さんと仲直り出来るのだとすれば面と向かって謝るしかない。
意味があったにしても、自己防衛のために日暮さんを傷つけたのは僕なのだから。こんなネットのメッセージで謝るのは気がひける。
「一つ言っておくと杉咲って嘘下手くそだから全部バレてると思うよ?」
「全部とは?」
「ぜ~んぶ」
ニヤリと笑みを浮かべる福森さんが魔女に見えてしまったのは僕の見た幻覚などではないだろう。
「とにかく!」
「は、はい」
「何でも良いから今日中に一回メール送りな。晴乃に明日聞くからね。電話で」
物凄く怖い表情で威圧され僕はうなずいた。けど、悪い気はしなかった。
きっと僕も理由を探していたのだ。日暮さんと関わる理由を。
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