惹かれる想い
「じゃあ、またね」
楓君が、どこかに用事があるようで私達はショッピングモールで解散をすることになった。
彼の口から発せられる別れの言葉は当たり前の言葉のはずなのに私の胸に酷く響いてしまう。
私は彼に背を向け歩き出すが、背中越しにいつまでも彼の温もりをイメージしていた。もしかすると彼はすぐ近くにいるのではないか。そんなはずもないのに振り返り、肩を落とす。
私はいつも彼に背を向けてばかりだ。
本当はいつまでも見ていたいのに。そんなことを口にすれば今度は彼が私に背を向けるだろう。結局、私達は出会ったあの日からちゃんと向き合ったことがない。
でも、地球が丸くて良かったと感じる。私と彼が互いに背を向けて歩き続ければいずれ私達は向かい合える。
今はまだ、叶わなくても彼は着実と前に進んでいる。私も…いや私だけは同じところにとどまったままだ。
すっかり日がくれた夜景を電車の窓から眺めていると冴えない表情の可愛くもない女が映っていた。
それが私なのだと思うと、なんだか笑えてしまう。
いつか私は彼に感謝を伝えるだろうな。なんてこの頃良く思う。
それに、今日の彼の発言は本当に嬉しかったんだ。
あんな他人に干渉しないような性格の彼が私のために柄にもない提案を持ちかけてくれた。
あのときは平静を装ったけど、本当は泣きそうだった。いや、違う。
私は彼にバスケが好きなのだと見透かされたときから涙をこらえている。
、
彼を見ていると感情が揺さぶられてしまう。だから散々なまでに用件を押し付けた。
今はまだ、隠すときだから。
だから、私は自分に誓おうと思う。もし、体育祭のリレーで一位になったら彼に全てを伝える。
それから、一つだけ嘘をつこう。そうしなければきっと私が彼の幸せな未来を奪うことになる。彼は、楓君は私の出会ってきた人のなかで一番面倒くさくて一番気弱で一番優しいから。
けど。もし…私が楓君を不幸にしないのならその時はありがとうを伝えたいな。
最寄り駅につき、眺める夜空はネットで見るどんな絶景よりも輝いて見えた。
周囲に人がいないことを確認し呟く。
「これが恋する乙女の見る世界…」
自分で言って恥ずかしくなり、私は小走りで家路を急ぐ。
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