壊された立ち位置4
季節は変わり始めクラス内では体育祭に向けた話が繰り広げられるようになった。ホームルームを使いクラスミーティングと一丁前に名付けられ話し合いをする。今もその最中だ。
体育祭はクラス対抗ではないのだから話し合い事態が無意味だと思った。だが、話している内容はクラス対抗リレーだった。
クラス対抗リレーは各学年で予選を行い、勝ち上がった三クラスで校内の一位を決めるという小さな小さな大会だ。
体育祭な勝ち負けとは無縁だが生徒が一番盛り上がる競技だろう。去年も凄く白熱したと誰かが口にしていたが僕は保健室で寝ていたため見ていない。
無論、炎天下の中必死で走る人間なんて見たいとも思わないが。
「杉咲は何走目がいいとかあるか?」
くだらない屁理屈を胸の打ちに秘めていた事を見透かしたのか、二年生エース君は冷めた声で僕に問う。
そのせいで室内は静まり返り視線が僕に集まる。その視線のどれもが僕に対する何かしらの悪意に思えてしまって声など出せなかった。
そんな僕を彼は畳み掛けにきた。
「普段は元気なくせにこう言うときに話せないと大人になって苦労するよ」
同年代のたかがクラスメイトに将来を心配されたくはない。僕は彼よりも頭がいいし他人から嫌われない限り上手くやっていける。
そう思いながらも口を紡ぐと僕の事を諦めたのか、彼は別の話題に路線を変えていった。それからの、ミーティングは物凄く長く感じた。だが、それも終わった。
また明日のこの時間にはこのミーティングがあるのかと思うと流石に鬱になりそうだ。彼はやはり僕の事を嫌っている。その根底には恐らく、日暮さんがいるのだろう。
僕が荷物をまとめていると、日暮さんが当たり前かのように僕の席へと向かってきているのがわかった。ついでに、それよりも先に彼が無言で僕の腕をつかもうとしていることにも気がついた。
避けるなんてことはしないがそれでも、引っ張られるのはそこそこいたいと感じた。
廊下に連れ去られ、何を言われるのか。何て考えていると何も言われなかった。
ただ、気が付くと僕は彼を見上げていて左頬は熱く、痛みがあった。言葉など要らない、そういうやり方に本気で苛立ちを覚えた。
見るからに体格が違う僕だが、それでも立ち上がり彼に詰め寄る。勝てるなんて一ミリも思ってはいない。それでも、一言いってやりたかった。
「君さ、僕に大人になって苦労するとか言ってる暇あったら自分を見直しなよ。今の行為、社会に出たら捕ま…」
言いたいことすら最後まで言わせてもらえないもどかしさ。というよりも彼はもう終わった、と思った。
一人の生徒を二回殴る。そんなやつに誰がついていくのだというのか。例えついていく者がいたとしても、ついていかない者も必ずしも現れる。
「何してるの…」
そんなとき、またしてもバッドタイミングで日暮さんが現れる。本当に迷惑だと思う、が僕を見て心配そうな表情をされると仕方なくも思えてしまう。
君が発端かもしれないとはとても言えない…。
日暮さんが呼んだのかはわからないがすぐに先生も駆けつけた。
辺りには部活へ向かう大群の野次馬がいた。それだけに彼はどうなってしまうのか少しばかり心配になる。
その帰り道、僕のとなりには日暮さんがいた。
「楓君が私を拒んだのってこういうことだったのか」
その通りだが、頷いてしまいたくはないと思った。それに彼が僕を単純に嫌いなだけで日暮さんとは無縁の可能性もある。
「たぶん違うよ。日暮さんは関係ない」
「あるよ。だって、私はあの日遊びに誘われてたの」
「あの日って?」
先生を挟んだ話し合いが長引いたせいで僕らの歩く道は既にはっきりとは見えない程に暗くなっていた。
途中途中にある電灯に照らされながらも日暮さんは口にする。
「楓君と初めて遊んだ日。本当は体育館近くで待ってたんだけど…。まあ、私の気まぐれで遊び断ってあなたを選んじゃったのよね~」
あははと笑う日暮さんを軽蔑したりしないが、適当な人だなーとは思った。実際にこの話が本当だったとして迷惑を受けているのは僕だ。
でも、実際にこの話が本当だったとして友達を作るきっかけをくれたのは、友達になってくれたのは日暮さんだ。
だから、僕は正直に言葉にする。いつかに先伸ばしてはずっと言えない気がするから。
「日暮さん、ありがとう。今は、はっきりと分かるよ。僕は好かれも嫌われたくもない。そういう人間だったけど今は、君に好かれたい」
友達になりたいと思ったのが、なぜ日暮さんなのかは上手く言葉に出来ないけれどなんとなく日暮さんの作り出す空気に僕の作り出す空気がはまったんだ。
そんな、感覚的理由しか述べることは出来ないが日暮さんならそれでも快く笑って受け入れてくれるたろう。
「な、何言っちゃってるのよ!」
「え?は、えちょ。ま、、待ってよ」
感謝の思いを伝えたつもりなのに日暮さんは全力で駅の方まで走っていってしまった。その背中を今度はしっかりと追いかけ、追い付いた。
膝に手をつき、息を切らす日暮さんは辛そうだったが僕の顔を見上げるその顔は笑っていた。
「やるじゃん、おサボり君」
勿論、悪口には悪口で対抗させていただく。
「たった五十メートルそこらで息切れする日暮さんにこそサボりの称号はふさわしいよ」
「なにそれ、頭おかしいんじゃないの?」
「え、日暮さんよりは行ける大学多いと思うけど?」
「うっざ」
そう呟き笑みをこぼす日暮さんの手をとった。これを一般的には手を繋ぐとは言わないらしい。だが、僕は少しだけ成長できたようなそんな錯覚に陥っていた。
日暮さんと見上げる夜空をいつか、たくさんの人と一緒に見上げたい。
そんな事を僕は考え、恥ずかしくなり諦めた。非現実的すぎるのは諦めていい。それが僕らしさなのだから。
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