壊された立ち位置2
昨日と変わらない道をたどり学校に辿り着く頃、僕は視線を気にしていた。
駅を出たあたりから周囲の視線が妙に集まっているように感じて気味が悪かった。これがただの自意識過剰なのだとしたらそれにこしたことはない。
だが、教室に入り自分の席に着いたとき一人のクラスメイトが僕の方へと歩いてきた。だが、僕は自分のところに来ているのだと信じられずに惚けることにした。
「ねぇ」
「…」
これはやはり僕に向かって言っているのかもしれない。だが、まだそう判断するには早すぎる。
「おい!」
僕の目の前で荒い口調になっている。これは間違いなく僕に対する嫌悪からくる口調だ。
ゆっくりと顔をあげると目の前にはバスケ部の二年生エースがいた。
勿論、僕は彼の腕前は知らない。でもクラスの皆は彼の事を二年生エースだといっておだてていた。つまりそこそこには上手いのだろう。
「どうしたの?」
「昨日さ、晴乃と一緒に何してたの?」
その話だと思っていた僕はあまり驚きはしなかったがこんなことを本人のいる前で良く言えるな、と思った。
だが、教室内には日暮さんの姿はなく納得できた。きっとこのタイミングで言うしかなかったのだろう。
「偶然遭遇しただけだよ」
「ふーん」
凄い睨まれたがそれもまた変化の一つとして受け入れるしかないのかもしれない。僕の日常も完全に壊されているわけでもない。
だが、日暮さんとの関わり方は本当に気を付けなければならない。というよりもここまでのリスクを背負って日暮さんと関わる理由なんてないのでは。
バスケ部の二年生エースである彼は僕を今一度威嚇するかのように睨み付け「お前には無理だからな」と言葉にして友達のいる方へと戻っていった。
それから授業の間、彼が言い残した『お前には無理だからな』という言葉を思い返していた。
なんど考えても僕が日暮さんを好きだと言われているような気がして気に入らなかった。たった一度買い物やゲームをしただけでこの言われ方。
僕は噂の一人歩きを恐れた。噂は風に乗って誰かのほんの小さな嘘から大きな嘘へと変動していく。
六限目の授業が終わりホームルームが始まる。だが、彼の残していった言葉が邪魔してなにも耳にはいってはこなかった。
そのお陰と言うべきかはわからないが、いつも長いと感じるホームルームが早く終わった気がした。
また、誰かに目をつけられる前に僕はさっさと帰り支度を済ませ廊下へいち早く出た。
誰もいない階段に差し掛かる時、足音が僕の方へと近付いてきた。運動部が急いでいるのかと思ったそうではないみたいだ。
「待ってよ楓君。一緒に帰る約束でしょ?」
僕を追ってきた日暮さんはこれまた大きな声で僕を引き留めた。そういった行為が僕の危機を増やしているとも知らずに。
だが、いい機会だとも思った。今日、現状を伝えればきっとこんなことはしなくなる。日暮さんは少しばかり天然だが人の嫌がることはしないだろう。
そう思って一緒に帰ることを決意したのだが僕の予想とは全く違った言葉が返ってきた。
「へ?見られてたの?」
駅までの道中に話を切り出すと日暮さんはそれなりに驚いているようだったがそれでも楽しそうに笑みを浮かべていた。
「何で笑ってるのさ。僕が日暮さんの事好きだと思われてるんだよ?」
「別にいんじゃない?」
あまりに他人事過ぎる日暮さんの態度に、僕は苛立ちを押さえきれずにいた。だから少しばかり声が大きくなってしまったのだ。
「僕は日暮さんのこと好きでもないのに」
僕の大きな声を聞いた日暮さんは今まで見てきた中でも一番驚いているようだった。それから前を見据えいつものようにあははと笑っていた。が、それがぎこちないと感じた。
「ごめんね。私といるのは迷惑だよね、了解」
「別に校内じゃなければ…」
「ううん。いい。メッセージももう送らないから、見かけても話しかけないし。色々とごめんね」
沈黙が続き日暮さんは僕の方へと視線を向け一言呟いた。
「でもさ、楓君はずるいよ…」
そう言って日暮さんは一人駅へとかけていった。そんな日暮さんを僕はまた追いかけることはなかった。
次の日、校内で日暮さんと何事もなかったかのようにすれ違った。半年前は当たり前やれていた事もたった一日遊んだだけで違和感に繋がってしまう。
バスケ部の二年生エースの彼に言われた言葉よりも日暮さんの言い残した『ずるい』という言葉が僕の胸には引っ掛かっていた。
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