人気者のクラスメイトと僕の接点3

「ねえねえ、楓君は寄り道しないの?」




 駅のホームで電車を待つ中彼女は当たり前の質問をしてきた。




「僕に寄る所なんてあるわけないだろ」




 普段学校が終わればすぐに家に帰る。いつだか彼女と鉢合わせしたときはテスト対策の放課後補修を受けていたのだ。あの時も、帰りは遅かったが実質直帰といえるだろう。




 つまり、僕は寄り道をして帰ったことがないしこれからもするつもりはない。




 彼女は僕の面白味のない普通な顔を覗き込むと嫌な笑みを浮かべた。




「じゃあ、これから寄り道デビューだね!」




 薄々気がついてはいた。僕なんかがこんなこと思うなんておこがましい事なのは分かっている。だが、彼女は自分の寄り道に僕を巻き込もうとしている。




 それを知った僕はさらにおこがましい行動をとらなければならない。


「ごめんね。今日は早く帰らないと行けないんだ」




 本当に何か用事があるかのように申し訳なさそうに口にすれば大抵の人は引いていく。こういった逃げる術も生きていく中では必要なのだと僕は思う。




「ふーん、じゃあちょっとだけだね」


「いや、ちょっとだけとかじゃなくて」


「ん?だって長くはいられないんでしょ?残念だけどまあ仕方ないよね」


「いやだから…。いや、そうだよ少しだけになる」




 否定をやめようと思った。理由として提示するのならば僕は彼女に口で勝てる気がしなかった。


 彼女が僕の嘘を見抜いていたとしても何も知らない天然だとしてもきっと口論は僕が言いくるめられる。




 それならば少しくらい我慢してもいい。というかこっそり帰ればいいと思っている。




 それから電車に乗った僕と彼女は僕の最寄り駅で電車を降りた。これもまた彼女の天然的な気遣いなのだとしたら少しはいいやつなのかもしれないと思わなくもない。




 駅を出ると彼女は背伸びをして僕の方を振り向く。この時、不覚にも綺麗な笑顔だと思わされてしまった。




「よし、行こうよゲーセン」


「ゲーセン…」


「なになにゲーム嫌いなの?」


「いや、そういうわけではない」




 僕がゲームを嫌っていないと知った彼女は躊躇うことなく僕をゲームセンターに連れ込んだ。




 頭がボーッとしてしまうような騒音のさまよう暗い空間。この空間にくることは凄く珍しいことで懐かしいとすら思えてしまう。




 まず、手始めになにをやろうかと思いながらも僕はお菓子のつまれたユーフォーキャッチャーの台の前に立ちお金をいれる。




 久しぶりでどこまで腕が落ちているのか把握しておきたかった。それによってはやるべき難易度を改めなくてはならない。だが、僕の手にかかれば積まれたお菓子などドミノのように倒れていった。




「よしっ!」


 崩れ落ちたお菓子を回収していると彼女の存在をようやく思いだした。ふと、振り替えるとニヤリと笑みを見せて僕を見ていた。




 お菓子を回収し終えた僕は彼女に差し出す。


「え、ええ!?、くれるの?」


 僕が他人に物をあげるのが珍しいことには変わりないが少し驚きすぎなのではないだろうか。




「さては楓君、素っ気ない態度をとっておいて私を狙ってるな~」


「僕は好きな人にはちゃんと好きだと言える。つまんないジョークなら学校の友達とやってくれる?」




 僕が少しばかり強い口調になってしまっていたのか、彼女はきょとんとしていた。そして口を開く。




「楓君も学校の友達じゃないの?」


 その発言により僕と彼女の溝の深さをよく知った。




「僕なんかは君の友達になれない。見る限りだと君の明るさは誰かを和ませているんだと思う。でもさ、僕は明るい女の子が好きじゃない」




「あははは。なにそれ。私告白してないのにフラれちゃった?マジか~初めてフラれたわ!」


 そう言って笑う彼女を見て思う。もし、僕が普通の男子高校生と同じ青さを持っていたのなら心底惚れていただろう、と。




 それからは普通に楽しんでしまった。


 彼女の欲しがった熊のぬいぐるみを取ってほしいと言われ、挑戦したが惨敗で彼女に止められても何度も挑戦した。そしてようやく手にいれた熊のぬいぐるみはどんな金銀財宝よりも価値のあるものに思えた。




 だが、ほんの数秒で我にかえり落ち込む。それでもぬいぐるみを抱き抱え「ありがとう!」と笑顔を見せてくる彼女がいるからまだましだった。




 車のレーシングゲームで勝負をしたときには僕の圧勝で、今度は彼女が何度も挑んできた。勿論叩きのめしてやった。




 悔しそうな彼女にジュースを差し出すとすぐに機嫌を取り戻し、単純な奴だなんて思いながらも、ふと笑みをこぼしてしまう。




 リズムゲームではリズム感のない僕をみて彼女笑っていた。


 笑われることに恥ずかしさがないわけではないが、久しく楽しいと感じる時間が不本意ながら今ここに存在していた。




 そんなことを思っていると彼女は申し訳なさそうな表情をつくり口を開く。


「時間、大丈夫?」




 本当は予定なんてないのだからここは心配させるような言葉を言ってはいけないのだろう。かといって今帰れば間に合うとかそういう言い方も気を使わせてしまう。


 だから、出来るだけ後味のいい言葉を僕は選んだ。




「あー、予定ならなくなったよ。さっきメールきてた」




 そう伝えると彼女は胸を撫で下ろし安堵していた。


 少しばかりの罪悪感を持った僕はなんとなくクレープでも奢ってあげようか、と思う。




「クレープ食べる?」


「なーに?奢ってくれちゃうわけー?」




 彼女にうざい口調は僕の善良な気持ちを簡単に塗り替えてしまった。




「いや自分で買って」


「ほーい」




 そう言って、彼女はクレープを選んでいた。僕が食べるか聞いただけで買うあたりかなりの食いしん坊なのだろう。




 僕が聞いた手前口にすることは出来ないが、クレープは太る元になり得る。




 彼女は苺のクレープをかい、近くのベンチに腰かけた。その横に立っていると彼女は自分の隣のベンチを叩き始めた。




「座りなよ」


「遠慮しとく」


「ダメ。痴漢したことばらされたいわけ?」


「そもそも僕は痴漢なんかしてない」




「ほら、早く」




 なぜだか僕は抵抗しても無理なのだと悟った。そもそも、彼女がクラスで人気者なのだから僕よりも彼女の意見が通ってしまう。




 すなわち彼女が僕の事を痴漢だと言えばそれ痴漢なのだ。世の中のルールなんてこんな感じで結構理不尽に作られていることが多い。




 幸せそうに苺クレープをたいらげる彼女を見て少しだけ微笑ましい光景だ、なんて柄にもないことを感じた。

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