今、どこにいる?
ー今、どこにいる?
家でぐっすり寝ていた俺はその通知で起きることなく未読無視を決め込んでいた。まぁ決め込んだというかそうならざるを得なかったって感じなんだが。
「なんでお前がいるんだよ」
突然強い揺れを感じて流石に起きた俺は、ぼやけた視界を占領している友人に対して大きなため息をついた。寝起きだからか喉が張り付いたようにぱさぱさしていて若干痛い。水をくれ水を。
「家にいるんだったらそういえよなー」
「…返信をしろと?」
「返信くらいできるだろ、愛しの男からの連絡だぜ?」
「お前がいつ愛しの人になったんだ」
一般的よりは少し長い茶髪がさわさわと俺の顔をなでる。言葉も髪の毛もうざったい奴を払いのけようとするが、だる重い腕は俺の思考に反して動く素振りを見せてくれない。いや、素振りを見せないわけじゃないか、見せられないんだ。どうやら俺の腕は目の前の奴にがっつりホールドされているらしい。
「放せよっ」
「ごめんって謝ったらいいよ?」
「なんで俺が謝んなきゃいけねぇんだよ」
理解できない。寝起きだからというわけではない。むしろ寝起きにしては俺は頭が回ってる方だと思う。なんで寝起きそうそう俺が謝らなきゃいけないんだ。
「とりあえずっ…重いなお前!」
押しのけようとしても、ただベッドに横たわっている状態でさらに成人男性の全体重をかけられているからか。力には割と自信のある流石の俺でもその拘束を解くことは出来なかった。これが絶世の美魔女とかだったらむしろご褒美なのだが…美魔女ってところには言及をしないでほしい。
「重いとか禁句だぞっ!」
女子かおかましか言わない台詞を吐いてわざとらしくウインクをする友人を俺は見ていられなかった。手で顔を覆いたかったがそれも叶わない。これは新手の地獄か?
「お前な!彼女みたいなことしやがって!なんなんだよ!?」
喉がびりっと痛む。これ以上大声は出したくないが、今の俺ができることと言ったら大声で威圧することぐらいしか思いつかなかった。
俺の必死の訴えは虚しくワンルームの部屋に響くだけで、目の前の奴には響かないようだが。
「なんなんだよはこっちの台詞なんだよな」
腕を掴む力が強くなった。ギリっと爪が食い込んできていて痛い。
「なんでここに住んでいるはずの妹がこの部屋にいなくて、お前がひとりで寝てるんだ?」
冷たい低音が部屋に響く。
「俺は2時間前、妹に連絡を入れたんだ。今日一緒に出掛ける約束してたからな。俺より数倍もしっかりしてる妹のことだ。寝坊していない限り返信がないのはおかしい、そう思ったのは1時間前くらいかな。通知くらいじゃ起きないか、そうだもう直接行って起こしてやろうと思った俺はこの部屋にきたってわけ」
淡々と男は話を続ける。きりきりと腕をホールドしたまま。爪が食い込んだ腕がぷちりと音を立てる。
「そしたらベッドに寝てるはずの妹はいなくて代わりに知らねぇ男が寝ている。しかもその枕元にはあいつのスマホ。訳が分からなかったよ」
腕から血が垂れた感覚がした。それでも力が弱まることはない。じわじわとさらに違和感が腕を侵食していく。もう痛みすら感じなかった。
「何かあった時用ってあいつがくれた鍵…まさかこんな形で役に立つとは思わなかったな…できれば。一生使いたくなかった」
ぽとりと頬に何かが落ちる感覚。その瞬間腹に鈍い痛みが走った。腹にたまった胃液が喉に上がってきたようでさらに喉が痛くなる。
ようやく解放されたであろう腕の感覚はもうすでになかった。
「なぁ、お前に最期の質問だ。」
ー今、妹はどこにいる?
(暗転)
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