バタフライエフェクト。

一匹の蝶が葉に留まっている。

その姿をスケッチするのが好きだった。


いや、最初は別になんでもよかった。

あまりにも稚拙な出来だったその絵を、母さんは褒めてくれた。だからぼくは蝶を描くのが好きになった。


ーまるで本物みたい!


上手な蝶の絵を描けば、母さんが喜んでくれる。

だからぼくは蝶を描き続けた。


ーごめんね、お母さん大切な話してるから


母さんが忙しくなっても。

ぼくは蝶の絵を描き貯めていった。

いつでも母さんに見せられるように。


蝶の絵が部屋の壁を埋め尽くした頃。

これを母さんに見せてあげよう。そう思った。

どんどん元気をなくしている母さんを喜ばせるかもしれない。

本当に僕はそう思ったんだ。



ーお母さん、結婚なんてしなきゃよかったのかなぁ



蝶が飛ぶ。

その軌道は僕が見てきたどんな蝶よりも稚拙なものだった。


外には雪が降っていた。

もう蝶が留まる葉なんて、何処にもない。


(暗転)

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