降りる。

人生は終わりのない螺旋階段だなんて誰が言っただろう。否、自分が考えた。

進もうと遥か上を見上げては先が全く見えないほどの暗闇を目の当たりにして恐怖し、戻ろうと下を覗けばそこは光が入らない闇に呑まれていて意識がぐらつく。

今までを見失い、これからを悲観する。

僅かの希望である手すりだって結局はボロボロでよりかかろうものなら一瞬で崩れてしまうのだ。

そうやって人は人生に落胆の影を落とす。

そう思っていた。


しかし自分は意気地がなかった。

その階段から飛び降りるなんて勇気はなかった。

だから、その場でつくばりただ時が過ぎるのを待っていた。


けれどそんな単調な日々が長く続くわけがない。

元来自分はどうも一箇所に止まれない生き物だったから。


「もう…辞めよう」


誰にも聞こえない声で呟いて、気まぐれに。一段階段を降りた。


その時だった。

目の前に光が差し込んだ。

突然のことに驚いてもう一歩降りてしまえば段差の僅かな空間から光が漏れだして辺りを照らし出す。


「そっか、そうだったのか」


今まで暗闇だと思っていた空間はただ光が入りづらいだけの場所だったことを思い知らされた。

螺旋階段の下を覗くとそれまで自分が捨ててきたものが見えた。全て回収するには少し骨が折れる程度にはどうやら全て捨ててしまっていたらしい。


もう、先に進むしかないようだ。

そう思うと少しだけ気が楽になれた気がした。どうやら自分は悲観的にものを捉えるのが好きなようで。でもそれでもいいのかなとさえ思う。

どうせこの階段には自分しかいない。それならどれだけ気取ってもいいじゃないか。

相変わらず見上げる宙は暗い。


「まぁ…駄目だったらそれで」


妙なポジティブシンキングを抱えて足を上げる。視線を上に向けると一瞬だけ光が差し込んだような気がした。



(暗転)

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